3 de 遊園地:04
【譲とあずみ】
「ほわあ・・・いい景色だねー」
「ん。……だな」
観覧車の窓に張り付いて感嘆の声を漏らすと、譲くんがこくんと頷いた。 譲くんとはあまり喋る機会はなかったけど……。でも、料理の練習しているときに、美姫ちゃんからのノロケ攻撃を受けるんだよねー。
つまり、 「ゆずって、本当に可愛いんです! 上目遣いとかされると、胸がきゅーんってなるんですよっ!!」 「でも、たまに男らしいんです。目つきがカッコよく変わったり……もう、本当に好きなんです!」 などなどですね。
可愛いのは、ほんのちょっとわかる・・・かも? いつだったか、「天使さん」とか言われたときは笑っちゃったもんなぁ……。
そんなことを考えながら視線を上げると、ふと譲くんと目があった。 なんとなしに、にっこりと笑いかけてみる。
「景色、いいねっ」
「ああ」
「美姫ちゃんたちも、もう乗ったかなぁ……?」
「……たぶん」
言った瞬間、むぅっと口を膨らませてしまった譲くん。 ……紳より強面だけど、紳よりずっと素直だ・・・とか、思っちゃいました。
「……美姫ちゃんとのデート、邪魔しちゃった?」
篠崎くんと奈緒ちゃんは、遊園地だけでもう100回以上は来てるって言っていたし、わたしと紳も何度も来ているけど……。 譲くんと美姫ちゃんは、はじめての遊園地デートだったんだよね? 邪魔しちゃった・・・かな?
今さらそんなことに気がついて問いかけると、譲くんはふるりと首を振った。
「……2人、でも・・・いたかったけど」
「うん?」
「でも……美姫さん、楽しそうだから……」
言いながら、うつむいていた譲くんが視線をあげた。 その瞬間、視線がばっちり合う。
「だから、よかった・・・と、思う」
「ほんとう・・・?」
「ん。美姫さん、雪村とか大澤のこと・・・すごく好きだし……。オレたち、もうすぐ卒業、だろ? だから、いっぱい話して、やって……?」
「……うんっ」
譲くんって、こんなに喋るんだなぁ……。 ちょっと驚きつつも、譲くんの言葉に大きくうなずく。
「……美姫ちゃん、愛されてますねぇ」
「……雪村には、言われたくない・・・けどな」
譲くんの大きな手が、わたしの頭にぽんっと乗せられた。 譲くんって、確か紳より身長大きいんだよね? 手も大きいな。
「そういえば、美姫ちゃんのお料理はどうですかー?」
ふと、週に3回ほど行われている料理教室の成果はどうなのかと思って、問いかけてみた。 譲くんは、その言葉を聞いてちょっとはにかむ。
「茶色く、なった」
「……あともう少しだねぇ」
真っ黒だった卵焼きは、茶色にまで色が落ち着いたらしい。 美姫ちゃんの料理は、ほとんど手品のレベルで……。道具も、材料も、全部きちんとしているのに、なぜかふたを開けてみるとおかしな物体になっている。 でも、徐々に卵の黄色に近づいているらしい。もうちょっと、がんばるよ美姫ちゃん!
「いつも、ありがと・・・な?」
「ううんー。あたしも楽しんでやってるよう!」
「……雪村・・・」
譲くんからの「ありがとう」に首を振ると、譲くんはふと口角を上げた。
「オレ、雪村の空気・・・好き」
「ほんと? わたしも、譲くんの雰囲気好きだよう!」
なんか、ほかほかするもん。 こたつの中でぬくぬくしてる感じ……?
「「でも、」」
いつの間にか、終わりに近づいていた観覧車。 ほわほわと和んでいたわたしと譲くんは、同時に口を開いた。
「紳に、」 「美姫さんに、」
「「会いたい(ね)」」
わたしたち、先頭だったから、紳たちが降りてくるのを待ってなきゃいけないんだ。 でもまあ、譲くんと待ってよーっと。
はじめてこんなに会話した譲くんは、予想通りとてもほわほわした人でした。 でも、美姫ちゃんの言う「かわいい」は、ちょっとしかわからなかったなぁ。
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