3 de 遊園地:02
「やだぁっ! いや、やぁあっ!!」
「ちゃんと前見ないと落ちるぞ?」
「ふぇ、落ちるのやぁっ・・・」
「じゃあ、ちゃんと見ろ」
「っ、あ・・・やぁ・・・」
「……喘いでる?」
「バカ」
こう見えて、オレと奈緒はジェットコースターに強い。オレ、遊園地大好きだったから、小さい頃からしょっちゅう奈緒と来てたんだよねー。 それに、このジェットコースター、そんなに怖くないし……。
ということで、オレと奈緒は余裕こいて会話をしていた。 ま、こっそり手を繋いだりしてるけどね。
ジェットコースターの順番は、先頭が紳くんとあずみちゃん、中央にオレと奈緒、うしろに譲と女王だ。 あずみちゃんは、どうやら本気でジェットコースターが無理らしく……。コースターがカーブを切るたびに、まるで喘いでいるかの……とかいったら紳くんに殺されるね。とにかく、緩急にあわせて叫び声をあげまくっていた。 それに対して、「前を見ていないと落ちる」なんてちょーっと考えればわかるような嘘を言って、あずみちゃんで遊んでいる紳くんは、やっぱりドSなんだろう。 紳くんは、めちゃくちゃカッコいいし、男らしい。でもオレは、あえてこう問いかけるよ。 あずみちゃん、なんで紳くんと付き合ってるの?
奈緒も、もうちょっと怖がってくれればいいのになー。オレの「喘いでる?」発言に対して、瞬時にべしっと頭をはたく奈緒は、ちょっとどうかと思います。最近、奈緒のツッコミレベルがどんどん上がってる気がするんだよねー。「なんでやねん」って言い出したら、オレ泣いちゃうかも。 ……まあ、後ろの女王みたいになられても困るけどさ。
「ゆず、ゆずっ! なにこれっ!」
「ジェ、ト・・・コスター」
「ジェトコスター!」
「ちが・・・、ジェット………って、・・・! 美姫さん、あぶなっ!! 乗り出しちゃ、だめだ!」
「へえ、レールの上を走ってるのね? 車輪かしら?」
「触っちゃ、・・・だめっ!」
「ご、ごめんなさい。……ゆず! 体ぐるーんってしてるー!!」
「う、ぇえ・・・」
先ほど並んでいるときに聞いた話だと、女王はこういう遊園地に来るのがはじめてらしい。本場のネズミーランドには行ったことあるらしいけど、ジェットコースターとか乗ったこともないんだって。 だからなのか、テンションがもう、上がる上がる。身を乗り出すは、ありえないことに車輪に触ろうとするは……。テンションが上がりすぎて、幼児返りしてるんじゃないかって思うくらいだ。 それから……本人は何も言わなかったけど、どうやら譲はジェットコースターが苦手らしい。並んでいるとき、青い顔してたし……。 女王も、いつもなら譲の変化に気づくんだろうけど……。完全にテンションがおかしくなってるから、気づいてないね。
「……こういうの、カオスって言うのかな・・・」
「そだねー。すごいのに挟まれたねー」
呆れたように、でも楽しそうにため息をはく奈緒。 オレは、そんな奈緒の手をぎゅっと握る。
「……どしたの?」
「トンネルが勝負ね♪」
「へ?」
海賊が宝探しをするというテーマに沿ってつくられたこのジェットコースターは、途中途中小さなトンネルがある。 その中でも、とくに長いトンネルに入る直前、オレは奈緒に向かって笑いかけた。
ゴーッという、トンネル内独特の風を切る音。 オレは、暗闇を利用して、繋いでいる奈緒の手を引っ張った。
――で、
ちゅっ、
ついばむように、奈緒の唇にキスを落とす。 でも、スピードがついているコースター上だし、さすがにすぐ唇を離した。 奈緒の唇に、歯でも当たったら嫌だしね。
「…………っ、」
「へへっ」
ふいうちのキスは、奈緒をデレさせました。 やったね!
「い、や・・・やぁあああああっ!!!」
「ほら、目開けろ」
「むり、っ・・・! や、――っ!!」
ついに叫び声も出なくなって、声なき声をあげたあずみちゃん。 ……イっちゃったみt(ry
それから、
「ゆず、暗い!」
「く、ら・・・」
「なんでトンネルがあるの?」
「……ネル・・・」
「……ゆず?」
「…………ぅ、」
「ゆず、……ゆずっ!? 死んじゃイヤっ!!」
ついに言葉も出なくなった譲に、慌てふためく女王。 いやいや……。ジェットコースターで18歳の青年は死なないよ。
とにかく、前後はすごい強烈だけど、ね。 オレにとっては、隣で赤くなっちゃってる奈緒が、どんなすごいできごとよりも目を引くんだ。 それ以外、見てらんないんだよー、だ。
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