――……。
温かい体温を肌で感じながら、まどろむ。 ・・・落ち着く。
ゆっくりと目を開けると、視界に入ったのは艶やかな黒髪。 ……なにもまとっていない、奈緒。
ああ、そっか。 オレ……ヤりすぎて、落ちちゃったんだ。 ・・・どれくらい、寝てたんだろう……?
……ま、いいや。 奈緒はオレの腕の中にいるし……。あったかいし。 なんか、すげー幸せだし・・・。
「……壱、起きた?」
あまりの温かさに、奈緒を抱きしめたまま思考にふけっていると、突然腕の中から声が聞こえた。 ……奈緒、起きてたんだ。
「・・・うん。さっき・・・」
本当は、ずーっと抱きしめて寝ていたかったけど……。 話半ばで、奈緒との行為をはじめちゃったし・・・。のん気に寝ているわけにもいかないよね。
「おはよ、」
「はよー」
「……早速だけど・・・いつまで、挿れてるつもり・・・?」
ん?と思って下半身に意識を集中させる。 ……はりゃ。 繋がりっぱなしじゃないですか。
「……ごめん、」
とたんに、ムリをさせまくったことを思い出す。 ……うう・・・。
腰を動かして、奈緒のナカから息子さんを抜き取る。 ・・・7回も、よくやったな、お前。
「……んっ、」
そして、奈緒ちゃんは・・・声上げないでくれるかなー? 息子さん、8ラウンド目に突入しようとしてるよ・・・?
被せていたゴムは、白濁にまみれていた。 オレは、ゴムを引き抜いて先端を縛り、近くに置いてあったゴミ箱にぽいって捨てた。 ……この、ゴミ箱には・・・7つの使用済みコンドームが捨ててあるわけですね。 あとで、絶対に処分しよう。
でも、本当は……。 本当は、ゴムとかつけないで、奈緒と繋がりたい。 奈緒のナカに、オレの精子ぶっこんで・・・それで、奈緒が妊娠したら・・・奈緒は、オレのものになるでしょう? 正直、孕ませたいとか思っちゃうんだ。
……あー、もう。 なんなの、オレ。 冗談で考えていいことと、悪いことがあるでしょ・・・。
「……あたし・・・結婚式は、しっかりやりたいから……。授かり婚は、避けたいな」
「ふ、ええ!??」
と。 急に腕の中から奈緒の声が聞こえた。 え!?オレ、今の口に出してた? ……じゃなくて、奈緒今なんて言った!? そのセリフにびっくりしすぎて、思わずあずみちゃんみたいな声出しちゃったじゃん!!
「け、っこん・・・?」
「……や?」
腕の中で、首を傾げてオレを見つめる奈緒。 いやなわけない、ってことで、首をぶんぶんと振っておく。
「う、嬉しい!嬉しいんだけど……奈緒、オレのこと・・・許してくれるの・・・?」
「……正直、ムカついてはいるけど・・・」
「……う、」
簡単に、許してもらえるわけないですよねー・・・。
「…………約束、してくれるなら・・・」
「うえ?」
でも、と前置きして、奈緒が口を開く。 ……約束?
「ひとつだけ・・・約束して?……あたし以外の女の子を・・・見ないで欲しい」
「見ないっ」
そんなの、当たり前! ということで、即答して奈緒を抱きしめたら、背中をつねられた。
「……痛いよ、奈緒さん」
「……本当?」
「……絶対、誓う。……オレが、もし……もし、交通事故で記憶無くして、他の女の子に擦り寄ってたら……オレのこと殺して?」
そう言うと、奈緒はぎょっとした顔を見せた。 そんな顔も、可愛いですね。
「な、なにそれ?」
「あー・・・。でも、奈緒を殺人者にしちゃうのはダメかぁ……。なんか考えてみる」
「アホ言ってないで……」
「まあ、記憶無くしても奈緒のこと大好きだと思うけどねー」
「っていうか、そんなシチュエーションありえないから・・・」
「だって、記憶無くさない限り、奈緒以外を見ることなんてありえないもん!」
そう言って笑うと、奈緒が「どの口が・・・」と拗ねて見せた。 ……ごめんなさい。
「でも、ね。本当に・・・。オレ、恋愛感情ってどういうものか分からなかった。でも、付き合うなら奈緒以上に想える女の子とって思ってた。だから・・・特定の子とか、いらなかった」
「……ばーか、」
「うん。本当、バカだなって思う。それって、奈緒以外の人と付き合ったりする気がないのと一緒なのにね。……それに、オレの人生に奈緒がいないってありえなくて……。心の奥底で、じいちゃんばあちゃんになっても、隣に奈緒がいるのを、当然だと思ってたんだ」
「…………っ、」
オレがそう言った瞬間、奈緒の大きな目から、涙がこぼれた。 ……また、傷つけた?
「悲しくて泣いてるんじゃないよ。・・・嬉しいの」
オレがおろおろしていると、奈緒がにこりと笑ってそう言った。 とりあえず・・・ほっとする。
「……最初から、プライドなんて捨てればよかったね」
「……え?」
「あたしが、壱を想ってるのと同じくらいに、壱にもあたしを想ってほしかった。だから、本心を告げないで、変な駆け引きをしたり、夜出かける壱を見て勝手に傷ついてた。……早く、言えばよかったのに、バカみたいだね」
ふふっと笑う奈緒。
……でも。奈緒は笑っているけれど……。 奈緒の心の傷は、きっとそう簡単には癒えないと思う。 逆パターンで考えれば、すぐに分かるもん。 オレは……傷つけただけ、これから奈緒を大切にしなきゃいけない。 奈緒は優しいから、きっと許してくれるけど……オレは、奈緒を傷つけたことを忘れちゃいけない。
「奈緒、なんでもわがまま言って?」
「……え?」
短絡的だけど・・・できることから。 オレがそう言ったら、奈緒は「うーん」と考え込んだ。
「……別に、いいのに・・・」
「オレがやなのっ!」
とりあえず、自己満足でもいい。
奈緒は、オレが「約束」するなら、許してくれるって言ってくれた。 そんな「約束」、屁でもねーよ! つーか、奈緒以外に勃つ気がしないよっ!
でもね。 オレの気が、済まない。 オレは、奈緒をいっぱい傷つけた。 それから、嫉妬心に駆られて無理やり抱いたりもした。 ……さいっあく。
だから、なんでも言ってほしい。 いいよ!もう。お金くれって言われたら、今すぐ工事現場の面接受けるよ! マグロ漁船も、どーんと来いっ!!
「……あ、・・・じゃあ……」
「うん!なに!?乗るよ、マグロ漁船!!」
どうやったら乗れるか、分かんないけど。
「…………?えっと・・・下半身に、まったく力が入らなくて……」
「…………うぅ・・・」
「明日、学校行ける気がしないから・・・一緒にさぼってほしいなー・・・とか、」
「……もちろんです精一杯お世話させていただきますごめんなさい」
矢継ぎ早に謝罪の言葉を述べる。 ……元はといえば、オレのせいじゃん……。
「……壱は、あたしに謝ってばっかりだね」
「……そりゃ、そうですよ・・・」
「謝罪の言葉は、もういいよ。あたしにも、たくさん悪いとこあったし……。壱の気が済むまで抱いてもらいたいって思ったのも、あたし。謝る必要、ないでしょ?」
「で、でも……」
謝ることだらけだもん。 嫌われて、縁を切られてもおかしくなかった。 でも、奈緒は許してくれて……オレの真っ黒い感情を、全身で受け止めてくれた。 謝罪の言葉以外、言葉にするのもおこがましいっていうか……。
「謝罪の言葉より……もっと、聞きたいこと、あるんだけどなあ」
後悔の念にさいなまれているオレのおでこに人差し指を突き立てて、奈緒が笑った。
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