思いがけず、奈緒がオレの腕の中に飛び込んできた。 しかも、それをしたのはおかん。
「・・・っ、!!」
しがみついているのがオレだって気がついたんだろう。 奈緒が、バッとオレから離れようとする。 そうはさせるか、とばかりに、オレは奈緒の背中に手を回して、がっちりホールドした。 ……つまり、抱きしめた。
「や、やだっ!!」
暴れまわる奈緒。 でも、離したくない。 ……もう、離れたくない!
そう思ったオレは、ぎゅうっと奈緒を抱きしめる。
「奈緒・・・なおー・・・」
同時に、やっと奈緒に触れられたのが嬉しくて、奈緒の名前を呼びながら、また泣いちゃった。 顔を上げて、オレが泣き喚いてるのを見て、奈緒がぴたりと止まる。
「・・・い、ち……」
「う、奈緒・・・」
腕の中に、奈緒がいる。 それが嬉しくて……。
「奈緒・・・も、やだ。離れるの、やだっ……」
ぎゅっと抱きしめながらそう言うと、奈緒はくしゃっと顔を歪めた。 そして、おずおずと・・・オレの背中に手を回してくれた。
「、あ・・・たし・・・だって、やっ…でも……」
でも、と言って、奈緒は俯いた。 下を見たまま、奈緒はふるふると首を振る。
奈緒は、オレと一緒にいる気はないのかな? 何を言っても、無駄?
そんな、いやなことばかりが頭をめぐる。 ……そんなの、絶対にいやだよっ。
「奈緒!」
と。 先ほど奈緒を突き飛ばしたおかんが、奈緒の背中に声をかけた。 オレの腕の中で、奈緒が首を回す。
……おかんは、呆れたみたいに笑っていた。
「あのね、篠崎もバカだけど、アンタもバカだと思うよ、あたしは」
カラッとした口調でオレたちをバカだと言うおかん。 呆気に取られているオレたちに笑顔を向けて、おかんは続ける。
「奈緒も、篠崎も・・・。端から見てたら、まだるっこしいバカ共。篠崎の真意は、知らないけど・・・。奈緒のこと、ちょっとありえないくらい大切に思ってるのは分かるし……。それに、奈緒も」
「な、奈緒は悪くない・・・!」
奈緒のこと、責めようとしてるのかな? だとしたら、ダメだよ・・・! だって、奈緒は何も悪くないもんっ!! 悪いのは、逃げてたオレだもん!
「篠崎は黙ってな。……奈緒?アンタにとって、篠崎ってその程度なの?」
「・・・え……?」
おかんの言葉に、奈緒が目を丸くする。
「本心を伝えたら、切れちゃうような間柄?それもしないで、距離を取れるような関係なの?」
「ち、違う・・・!」
首を振りながら、奈緒が言う。
「そうでしょ?……奈緒は、篠崎に気持ち伝えた?自分を見てくれるまでって、保険を貼ったんでしょ?」
「・・・っ、……!」
小さく声を漏らした奈緒は・・・ゆっくり、頷いた。
「大事な子がいるのに、鈍すぎてほかの女に手を出した篠崎は、ありえないと思うけど……。でも、篠崎以外と付き合う気もないのに、採点を持ちかけたり、変に駆け引きをしちゃう奈緒もバカだよ」
「奈緒、バカじゃないよ!」
あまりの言いように、おかんに向かって声を出すと、奈緒がオレの服をぎゅっと握って、それを制した。 そして、涙で濡れた目を、ゆっくりと上げる。
「そう、だよね。あたし・・・バカだね」
オレの目をまっすぐ見て・・・奈緒が言う。
「バカ、だね。ちっぽけなプライドなんか、捨てればよかった・・・のに。なんで・・・後悔する道ばっかり選ぶんだろう・・・」
きゅっと唇を噛んで・・・。 奈緒が、オレを見た。
「壱・・・。壱の話、聞く。……あたしの話しも、聞いてくれる?」
「え・・・あ、うんっ!!」
急展開。 よくわかんないけど……。 奈緒と、ちゃんと話ができそうな気がする。
「えっと、あのね・・・オレ……」
「ストップ」
早速話し出そうとしたオレの唇に手を当てて、奈緒がふわりと笑った。 別に、そんなに久しぶりじゃないはずなんだけど・・・。 その笑顔に、胸がぎゅうって締め付けられるのが分かった。 ……すっごく、嬉しい。
「ゆっくり、話したいから……。あたしの家、行こう?」
「・・・え、」
本当は、すぐにでも話したかった。 でも……確かに、いつ誰が来るか分からないような場所でするような話じゃないよね。
「・・・ん、そうだね」
言いながら、腕の力を緩める。 奈緒が、もう逃げようとしていないっていうことは分かりきっているから・・・ね。
オレの胸から離れた奈緒は、おかんの方に向き直った。 そして、笑顔のおかんに、ぺこっと頭を下げる。
「ありがと、千夏。あたしも・・・ちゃんとする」
「ん。がんばっといで。……先生には、うまく言っておくから」
カバンとか、携帯とか……。 今は、どうでもいいや。
とにかく、奈緒に、早く気持ちを伝えなきゃ。
オレと奈緒は、足早に、家までの道を歩いた。
test 6 ⇒ End
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