Let's 採点 LOVE | ナノ


(08)


思いのたけを、ぶつけよう。
事態は、前進するかもしれない。……もしかしたら、後退するかもしれない。
でも、言うしかない。
奈緒を失うくらいなら……オレは、言うしかないんだよね。





「は、ぁっ・・・」


空き教室から、第3視聴覚室までは、意外に距離があった。
部活に入っていなくて、なんやかんやと運動不足なオレは、ぜいぜいと息を切らしてしまっている。


「な、お・・・」


ふう、って、呼吸を整える。
……よし。・・・よっし。


ゆっくりと、視聴覚室に近づく。
紳くんの言うことが正しければ・・・奈緒は、この中にいる。


普通に考えたら、紳くんが奈緒の居場所を知っているわけはないんだけど・・・。
オレは、奈緒はこの中にいるって信じていて・・・。


そして、ゆっくりドアを開けた。


「・・・っ、千夏・・・ごめ……」


ドアを開けた瞬間、目の前には2人の女子・・・言うまでもなく、奈緒とおかんがいた。
奈緒は、ぺたりと床に座り込んで……ぼろぼろ涙をこぼしている。
その背中をさすりながら、おかんは難しい顔をしていた。


「……なお・・・」


視聴覚室に足を踏み入れて、奈緒の名前を呼ぶ。
すると、びくり、と奈緒の肩が動いた。


「……篠崎?」


驚いたようにオレを見るおかん。
なんで分かったの?っていう、当然の言葉を投げかけてくる。


でも、オレは奈緒しか見ていなかった。
ゆっくり、奈緒に向かって足を進める。


「奈緒・・・話、聞いて」


決心はした。
でも、やっぱり怖いんだ。


だから、そう言ったオレの声は、自分でも情けないなって思うくらい震えていた。


「・・・っ、や…」


奈緒は、ぶるんと首を振ると、ずるずると動いて、おかんの影に隠れてしまう。
……っ。諦めちゃ、ダメだ。


「奈緒・・・お願い。オレ、奈緒のこと失いたくない。ばいばい、したくない……」

「この、まま・・・の関係・・・は、ムリ…」


嗚咽交じりで、奈緒が言う。
このままの、関係?
このままの関係は……オレのほうが、ムリだよ。


「お願い、奈緒。オレ・・・もう逃げない。話をさせて」

「うっ、や・・・」


頑なにオレを拒む奈緒。
オレとエッチしてるときだって、奈緒はこんなに泣かない。
……こんなにぼろぼろに泣く奈緒を、オレははじめて見た。


そんでもって・・・そうさせてるのは、オレなんだよね。


「奈緒・・・話、聞いて?オレ・・・もう、ちゃんとするって決めたんだよ」


うわっ・・・。
また、涙が出てきた。
オレ・・・どれだけ泣き虫なんだろう。……ばかみたいだよ。





「……篠崎、」


と。
黙っていたおかんが、低い声を出した。
……帰れって、言われちゃうのかな?
お前なんか、奈緒の傍にいちゃダメって・・・。


そう思ったけど、おかんの目はオレを責めていなくて・・・。
ただ、まっすぐ見てくる。


「……ちゃんと、するの?」


そして、しばらくの沈黙の後、おかんがオレから視線を逸らさないで、言った。
「ちゃんと」。


紳くんにも言われた。
あずみちゃんにも言われた。
兄貴にも言われた。
譲も・・・言葉は違うけど、たぶん同じようなことを言ってくれた。


「ちゃんと」。
そうだよ、ね。ちゃんと、しなくちゃ。


「ちゃんと、したい。オレ・・・もう逃げないって決めた」


おかんの目を見て、まっすぐそう言う。
すると、おかんはふっと口角を上げた。


「そう。・・・よかった」


にこり、と笑ったおかんは、すっと奈緒の背中に手を伸ばした。
そして、奈緒の脇に手を差し込んで、無理やり奈緒を立たせる。
……えっ!?


「千夏・・・?」


驚いたような顔をする奈緒に笑いかけると、おかんは、完全に立った奈緒の背中を、とんと押した。


「わっ!」

「奈緒・・・!?」


よろめいた奈緒は、ふらっと揺れて……。
そして、オレの胸元に向かって、つんのめった。






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