Let's 採点 LOVE | ナノ


(07)


「幸せって、なに?」


あずみちゃんが、目に涙を溜めて、話し出した。
でも、その質問はあまりに抽象的で……聞かれていることの意味が分からなくて、オレは首を傾げる。


「幸せ・・・?奈緒ちゃんの幸せを望んで、篠崎くんはほかの子を抱いたの・・・?」

「そ、そういうわけじゃないけど……!」


さすがに、そんなことはない。
ただ、奈緒でいっぱいの自分を落ち着かせるために、奈緒とこういう関係になる前の自分に、戻ってみたんだ。


「ただ・・・!奈緒ばっかりとエッチしてたら、まずいと思ったんだ!オレ、これ以上奈緒に対して黒い感情を抱くのがいやで……!」

「……だから、距離を置こうと思ったの?」

「……距離って、いうか・・・奈緒以外のこと、考えようって……」

「昨日、あたしが紳にタルト持ってきたとき……本当は奈緒ちゃん、直接篠崎くんに自分で作ったの渡そうとしたんだよ?でも……篠崎くん、途中で引き返したから……奈緒ちゃん、忙しいのかもって、紳に代理で渡してもらうことにしたの」

「……だ、って・・・奈緒に会うの、怖くて……」

「壊しちゃうかもしれないから?自分が幸せにできると思わないから?」


ぼろっ、
あずみちゃんの目から、涙がこぼれた。


「おかしいよ!そんなの・・・!!」

「……え?」

「おかしいよっ!!奈緒ちゃんの幸せを決めるのは、篠崎くんじゃない!!」


奈緒の、幸せ?


「奈緒ちゃんの幸せを願うのは、勝手だよ?でも……奈緒ちゃんの本心も聞かないで、自分の気持ちも隠して……そんなの、変だよ!!」


奈緒の、本心?
自分の、気持ち?


「『幸せになってほしい』って、なんで離れるの?なんで不誠実な態度を取るの?」

「だ、だって・・・オレが、奈緒を壊しちゃったら……」

「そもそも、壊すって何!?」

「う、え・・・。だから、奈緒のこと、めちゃくちゃに抱いたり……家に、閉じ込めたくなるの!!人目に触れさせたくなくなるの!!」

「それが奈緒ちゃんの不幸なの!?」

「ふ、不幸じゃん!そんなの・・・!!だったら……オレが、奈緒から離れたほうがいい……」

「…………っっ、!!ばかっ!!!」

「いてっ!!」


なぜか問答を繰り広げるオレとあずみちゃん。
そして、オレがそう言った瞬間、あずみちゃんはげしっとオレのすねをけっとばした。

い、痛いっ!!!


「あ、あずみちゃ・・・」

「だから、なんでそれが奈緒ちゃんにとって不幸だって決め付けるの!!??」

「だ、だって・・・不幸じゃん!」

「そんなの、奈緒ちゃんにしか分かんないでしょ!?奈緒ちゃんが、いつそう言った?それは、壱くんが決めることじゃないの!」

「……う、・・・」


あずみちゃんは、泣きながら言う。





……ああ、でも・・・。
そうなの、かも。





オレ、奈緒の言葉を聞いたかな?
酔った奈緒に『あたしだけを見て』って言われたとき……。
なんだか怖くなって、奈緒の言葉と、自分の気持ちに蓋をした。
あの、奈緒の言葉って……。
『あたしだけを見て』って……。


奈緒の傍にいるのが、怖かったんだ。
だから、ちょっと奈緒から意識を離そうって、思った。
女の子大好きだし、別の子抱いちゃえば、気もまぎれるかもって思ったんだ。


でも、それはオレの独りよがりな発想で……。
奈緒の気持ちなんか、これっぽっちも加味してなかった。
……むしろ、酔った奈緒のセリフを、半ばなかったことにしようって思っちゃったんだ。


「なんで男の人ってそうなの?『お前の一生を俺で縛り付けたくない』とかって、記憶抜いたり!!あたしが、何を望んでいるかも知らないで!!!」

「……悪かったって・・・」

「むぐっ、」


オレがぼーっとしている最中も、あずみちゃんは怒りが収まらないのか、よく分からない言葉を口にした。
そして、キッと紳くんを睨みつける。
それを見た紳くんは、困ったように笑って、あずみちゃんの口を塞いだ。
それから、オレのほうを見る。


「オレが何を言っても、お前は分からないだろうから……大澤の気持ちを知っているあずみに説教させたんだが……効果は、あったようだな」


紳くんが、ふっと口角を上げる。


「……あ、」

「何をすべきか、分かっただろ?」

「…………オレの気持ち、話す。あと、奈緒の気持ちも……聞く」


そう言うと、紳くんは柔らかく笑った。


「自己完結するな。どちらにせよ、こういうことはお前1人が考えて、決める問題じゃない。大澤の意志が第一だからな」

「う、うん・・・!」

「……篠崎くん?奈緒ちゃんの幸せは、奈緒ちゃんが決めるんだよ?篠崎くんが他の子に手を出すのって、奈緒ちゃんにとっては幸せでもなんでもない気がする」


塞がれた紳くんの手のひらをはずして、あずみちゃんが言った。
……うん。そうだよね。


「うん。オレ・・・なんか、間違ったみたい……」

「うんっ。……あの、ごめんね?わたし、つい余計なこと・・・それに、蹴っ飛ばしちゃった」

「ガツンときた。……ありがとう」


オレがお礼の言葉を述べると、あずみちゃん眉をちょこっと下げながらこくんと頷いた。


「奈緒・・・話、聞いてくれるかな?」

「誠意を持って話せば、絶対大丈夫!」

「……うん。オレ、奈緒とちゃんと話してみる!」


もう、逃げない。
逃げないで、ちゃんと奈緒に気持ちをぶつけよう。





「……あ、でも・・・」


すぐにでも空き教室を出て、奈緒のところに行こうと思ったんだけど……。
でも、奈緒はどこに行っちゃったんだろう……?


「学校中走り回って、探してみよう・・・」


それしか、ない。
すぐにでも会って、話がしたい。


そう思って足を踏み出そうとした瞬間、紳くんに腕を掴まれた。


驚いて振り返ると、紳くんが片目を瞑って、オレを見ていた。
……ウインクっすか?かっこいいっすね・・・。


紳くんの突然の行動に驚いていると、紳くんがふっと口を開いた。


「……第3視聴覚室だ」

「え・・・?」

「大澤と笹川は、第3視聴覚室にいる」


そう言うと、紳くんはぱっと腕を話した。
え、えぇぇぇぇえ!!??


「な、なんで知ってるの?」

「……さあな、」


驚いて尋ねると、紳くんは不敵な笑みを見せた。
前から思ってたけど……紳くんって、エスパーかもしれない……。


「早く、行け」

「う、うん!紳くん、あずみちゃん……ありがとね!」


手を振って、空き教室を出る。
……第3視聴覚室・・・この間、奈緒とエッチしたとこだ。


「奈緒・・・」


オレは、走り出した。






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