「や、やだ・・・やだ……」
どうしたらいいか分かんなくて……。 オレは、周囲の目も気にしないで、床に座り込んだまま泣き続けた。
完全に、キャラ崩壊。 たぶん、周りもドン引きだろうなーとか思いつつ、涙は止まんなくて……。
「奈緒・・・、……わっ!」
嗚咽を漏らしながら泣いていると、急に腕をぐいっと引っ張られた。 オレを引っ張り上げたのは……紳くんだった。 紳くんの隣には、唇を噛んで、オレを睨むようにしてみているあずみちゃん。 ……なんか、めちゃくちゃ怒ってる・・・?
「紳、く・・・っ……」
「こっち、来い」
ぐいっ、と紳くんに腕を引かれて、オレはよろけるように歩き出した。 引きずられるようにして歩いていると、ふ、と視界に、譲が映る。
「い、壱・・・紳……?」
「あぁ、悪い。……ちょっと、抜けるな?」
おろおろとする譲に、紳くんがにこりと笑いかけた。 譲は、びっくりしているようだったけど、こくんと頷いた。
「え、あ・・・壱?」
「う、ぅえ・・・な、に?」
オレは、情けないことにまだ泣き続けていて……。 譲に声をかけられて、泣きながら視線を上げた。
「……大事な、子は・・・死んでも、離しちゃダメだ」
「……へ?」
譲は、そう言うと、自分のセリフが恥ずかしかったのか、赤くなって俯いた。 その言葉を聞いた瞬間、オレと紳くんの後ろを歩いていたあずみちゃんが、こくんこくんと何度もうなずくのが見える。
「壱、がんばれ・・・」
「う、うん・・・」
今のオレ、何を頑張ればいいのかちょっと分からないけど……。 でも、譲の気持ちが嬉しくて、こくんと頷いておく。 それを見て、紳くんがふっと口角を上げた。
「行くぞ」
そして、小さく手を振る譲と、ガヤガヤとうるさいクラスメイトを置いて、オレたちは体育館を後にした。
紳くんに引きずられながら歩くこと数分。 しばらく歩くと、紳くんは急に歩を止めた。 そして、空き教室にオレを放り込む。
「……お前、何を考えているんだ?」
そして、誰もいないのを確認すると、空いていた椅子に腰掛けて、オレに問いかけた。 あずみちゃんも、ちょっとおどおどしながらその横に座る。
「な、にを・・・?」
「お前の行動の、意味が分からん。……大澤のことが、好きなんだろう?なぜ、他の女に手を出す?」
「す、好きじゃないもん!」
「は?」
「紳くんの好きって、恋愛感情って意味でしょ!?」
呆気に取られたようにオレを見る紳くんと、驚いたようにオレを見るあずみちゃん。
オレは、もうどうしたらいいのか分かんなくなっていて……。 自分の中で、感情を処理することができなかった。
「オレ、奈緒のこと・・・好きとか、そういうレベルじゃないっ……!大切なんだ。大事すぎて……壊すのが、怖いんだよ!!」
だから、紳くんとあずみちゃんに、いろいろぶちまけることにした。 こんなこと言ったら、引かれちゃうかもしれない。 でも、オレにとって一番大事な子は、もうオレの元を去っていて……。 自分の中で処理できないこの感情を、とにかくぶちまけてしまおうと思ったんだ。
紳くんは、オレの言葉を聞いて、眉根を寄せた。
奈緒のこと、すっごく大切に思ってること。 誰よりも幸せになってほしいこと。 抱きしめて、どろどろに甘やかしたい気持ちになること。 でも、逆に壊してしまいたくもなるってこと。 ほかの男に触られるのが、ムカツクってこと。 教生、殺してやろうかと思ったこと。 奈緒に「あたしだけを見て」って言われて、嬉しかったけど怖かったこと(酔って奈緒が言ったって言ったら、あずみちゃんがびっくりしてた)。 奈緒以外、手を出せなくなりそうだから、一回気持ちに蓋をしようと思ってアケミに手を出したこと。 奈緒がオレの元からいなくなったら……もう、すべてを失ったような気分になったこと。
全部、全部話した。 そしたら、紳くんは呆れたように眉を寄せて、あずみちゃんは頬を膨らませた。
「恋愛感情って……紳くんとあずみちゃんみたいなのでしょ!?オレ、そんなんじゃないっ!!」
隣に腰掛けてオレの話を聞く紳くんとあずみちゃん。 オレが持っている感情は……こんな、柔らかくて甘いものじゃない。
「真っ黒なんだ、オレ!奈緒のこと、大切なのに・・・!オレがこんな風に奈緒を想って、万が一奈緒がオレのものになったら……オレ、奈緒のことどうするか分かんない!!奈緒が、幸せになれない!!」
奈緒のことを考えると、また涙が出てくる。 オレは、泣きながら言葉を発した。
「……幸せ?」
と。 急に、目の前で低い声が聞こえる。 何かと思って顔を上げたら、唇をぎゅっと噛んだあずみちゃんが、オレのこと睨んでた。
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