Let's 採点 LOVE | ナノ


(04)


あまりのことに、呆然としてしまう。
見知った顔ばかりの体育館。


男・・・とくに、3−Aの男子は、かなりそわそわしていた。
そりゃ、そうか。
五大美女が3人もいるんだもんね。
しかも、仲良しで3人固まってるし……。


「……奈緒・・・」


会いたいって思ってた。
会って、話がしたいって。


でも、実際にその局面に立ったら……なんだか、緊張してしまう。
本当、臆病だなって思うけど、奈緒との関係がぐちゃぐちゃになっちゃうんじゃないかって、怖くて仕方がない。
でもでも、このままじゃいられないから……。
怖いけど、動かなきゃ。





そう思ったオレは、ふうっと息を吐き出すと、体育館を見渡した。
奈緒を、探すため。





「あ・・・」


奈緒は、すぐに見つかった。
もともと特出した容姿な上、あずみちゃんやおかんに囲まれているんだ。
目立つに、決まってるよね。


ここからじゃ、奈緒の後ろ姿しか見えない。
……顔が、見たい。


オレは、ゆっくり足を踏み出した。
ドキドキしながら、奈緒に向かって歩く。


「五大美女が・・・」
「全員巨乳・・・」
「天使が可愛すぎる」
「おかんも、遠目で見てる分には美人」
「オレはマドンナが好き」


「……っ、」


周囲から聞こえてくる、こんな声。
最後の言葉に、なぜかめちゃくちゃイライラする。
胸倉を掴んで、「奈緒のこと、見るな!」って怒鳴ってやりたい気分になる。





……ああ、また。
心が、真っ黒の感情に支配される。


……たぶん、この気持ちが原因なんだ。
奈緒に向き合えない、一番の原因。





「……篠崎、」


と。
オレは、思考にふけりながらも歩を進めていた。
気がついたら、奈緒のすぐ傍まで近づいていたみたい。


そんなオレに一番最初に気がついたのは、おかんだった。
低い声で、オレの名前を呼ぶ。


それに気がついたのだろう。
あずみちゃんがバッとオレを見た。
次いで……奈緒も。


「な、お・・・」


震える声で、奈緒の名前を呼ぶ。
名前を呼んだ瞬間、俯いていた奈緒の長いまつげが、ぴくりと震えた。


おかんが、ふうっと息をついて、騒ぐギャラリーを制す。
……言ってなかったけど、オレが奈緒に近づいてるって分かった瞬間、例のごとくD組から「奈緒に近づくなコール」が発せられてたんだ。


「なあに?」


周囲が大人しくなると、奈緒はふわりと笑った。
……笑っ、た?


「奈緒・・・?」

「どうしたの?」


もう1度、奈緒の名前を呼ぶ。
……やっぱり。


奈緒は、笑ってない。
いつもの、奈緒の笑顔じゃない。
……社交辞令みたいな、他人にするみたいな顔。
口角を上げて、目じりを少しだけ下げた、ただそれだけの顔。


「奈緒・・・笑ってよ……」

「?……笑ってるよ?」


困ったように、奈緒が言う。
……笑ってないよ。笑ってない、奈緒。


「ごめん、奈緒」

「…………」

「ごめん、オレ……。昨日……」

「……ふう、」


やばい、泣きそう……。
震える声で、奈緒に謝罪の言葉を述べる。
でも、奈緒は困ったような顔でオレを見て、ため息をついた。


「奈緒?奈緒・・・あの……」

「壱、はさ、なんか謝るようなこと、したの?」

「……え?」


「奈緒、」と言って、おかんが奈緒の服の裾を引っ張った。
でも、奈緒は小さく首を振って、何かを言いかけたおかんの言葉を制する。


「してないでしょ?」

「し、した!」

「……何を?」

「……な、・・・奈緒じゃない、女の子と……」


奈緒の目は、オレのことを責めていなかった。
ただ、淡々と言葉を連ねる。
責められたほうが、ましだったのに……。


奈緒に問われたことに対して、返事をしようとした。
でも、そこではた、と気がついてしまったんだ。
……オレ、アケミと寝たことを謝って、どうするんだろう・・・って。


例えば、オレと奈緒が付き合っていたとする。
彼氏、彼女って言う関係だとして……。
それで、オレがアケミと寝たら、それは「浮気」だ。もちろん、謝らなければならないこと。


でも・・・。
オレが奈緒をどう思っていようと、オレと奈緒は幼馴染。
別に、相手を束縛できる間柄じゃ、ないんだ。


別に、オレが誰と寝ようと奈緒には関係ないし、奈緒が……オレ以外のヤツに、抱かれようとも、オレは口出しできる立場じゃない。
オレたちは……そんな、関係なんだ。






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