Let's 採点 LOVE | ナノ


(03)


「……壱、」


教室に駆け込んだ瞬間、そばに寄ってきた紳くんに腕を引っ張られた。
そのまま、教室の隅まで連れて行かれる。


……普段、オレから紳くんに飛びつくことはあっても、紳くんがオレを引っ張ることなんてなかったから、めちゃくちゃびっくりした。


「な、なに?なんかあったの?」


慌てて問いかけると、紳くんがじっとオレの顔を見た。
ちょ・・・その整いすぎの顔で見ないでもらえません?緊張しちゃうんで……。


「……お前、昨日何をしていた?」

「・・・え、……っと・・・」


紳くんが、何を思ってこんなことを聞いてきたのかは分からない。
……あ。昨日、電話したからかな?


でも、この質問はよくない。
……すげえ、答えにくい。


「えっとー……街に、出てた・・・かな?」

「街?」

「……うん。暇だったから、ふらふらーっと」

「……そうか」


その一言を聞いて、紳くんは手を離した。
その瞬間チャイムが鳴ったから、慌てて席に着いたけど……。


「……なんだったん、だろ?」


口の中で呟いて、机にひじをつく。
先生の話を聞いているうちに、思考は再度奈緒へと移っていた。


……ええっと・・・今日は、1〜2時間目が体育なんだっけ。
そうしたら、10分しかないけど、その間の休み時間に奈緒の教室に行こう。
そんで、ちょっと話をしよう。


本当は今すぐ行きたいんだけど、ね。








先生の話が終わった瞬間、譲が近づいてきた。


「壱、なんか・・・あったか?」

「え?……あー、うん。ちょっと、幼馴染と喧嘩しちゃって・・・」

「マドンナさん?」

「そー。……譲こそ、何かあったの?なんか、ちょっとウキウキしてるね?」


そう問うと、譲は顔を真っ赤にした。
……うっはー。かわいいな畜生。


「えーっと・・・今週、美姫さんが遊びに、来るんだ」

「……おぉ、」


真っ赤になって言う譲。
譲と女王って、結構ラブラブ?


「よかったねー!」

「・・・ああ、」


頷いた譲が、ふわっと笑った。
普段強面だけど、笑うと和むっつうか、可愛いっつうか……。


「次、体育だね。準備しよー?」

「ああ、そうだな」





体育着に着替えると、同じく着替え終わった紳くんと譲が近づいてきた。
2人に笑いかけて、一緒に体育館に向かって歩き出す。


……歩いている最中、ふうっと息を吐いた。
さっきから、気がつくと奈緒のことを考えてしまう。


体育館に行き際にDクラスの前を通ったから覗いてみたけど、移動教室なのか誰もいなかった。
……とりあえず、体育を頑張って・・・それで、休み時間に行こう。


寝不足だし、頭ぐるぐるだし……。
なんで、よりによって今日体育かなー?


「今日、合同で球技大会だよ、な?」


……そうだった。
譲に言われて、思い出してしまった。
今日、ほかのクラスとの合同体育で、球技大会なんだっけ。


そんな、勝負事に熱くなってる場合じゃないっつーのっ!!


「……合同、か」


ふう、
紳くんがため息を吐いて、オレの顔を見た。
……なんだろ?紳くんってば、今日は物思いにふけってるぞ?


「紳くん・・・あずみちゃんと喧嘩でもしたの・・・?」


普段クールな紳くんの感情が動くのは、大体あずみちゃんが原因だ。
あずみちゃんがほかの男に告られると、相手の男を射殺すような形相で睨むし、同じクラスになれなかったって言ってた始業式は、周りがどん引きするくらいの機嫌の悪さだった。
だから今回も、あずみちゃんが原因かと思って尋ねると、紳くんはオレをまっすぐ見た。


「……お前、だろ?」

「え・・・?」

「大事な子に対して、不誠実な態度を取ったのは、お前・・・だろう?」

「……な、ん・・・」


思わず足を止めて、紳くんを見る。
……え?なんで?なんで紳くん……


「……紳くん、なんでそれ・・・」


紳くんに電話をしたとき、紳くんは「あずみの家にはいない」って言った。
でも、紳くんがオレと奈緒の間に何が起きたのかを知る術は、あずみちゃん経由でしかありえない。
そんで、あずみちゃんは昨日、奈緒と一緒にいた。


……つまり、紳くんは昨日あずみちゃんと何らかの形で接触したってこと。
そんでもって、必然的に奈緒も一緒にいたんだから……。


「……紳くん、奈緒が昨日どこにいたのか知ってた?」


「あずみの家にはいない」って……。嘘だったの?


「嘘はついていない。大澤は、あずみの家には行っていないからな。……あずみの家にいたのは、オレだ」

「え?じゃあ……」

「……大澤は昨日、あずみや笹川と共に、オレの家に泊まった」

「は、はいっ!?」


な、なにそれー!!??


「あずみが来て、『部屋を貸して!』と言われたから……貸した。おそらく、女3人になれる場所が、そこしか考えられなかったんだろう」


言いながら、紳くんがオレの腕を引っ張る。
オレは、紳くんに引きずられるようにして歩きながら、紳くんを睨みつけた。
その様子を見て、譲が慌てているのが分かる。


「なんで・・・?オレ昨日、奈緒のこと探してたんだ!話がしたかったし、会いたかったんだよ!?居場所を知ってるなら、何で黙ってるんだよ!」

「悪いな。昨日の様子を見ている限りでは、大澤はあずみや笹川の傍にいるのが一番いいと判断した」

「でも・・・でもっ!!」

「泣いてたぞ、大澤は」

「泣い、……!?」


奈緒が、泣いてた?
確かに、電話口の奈緒の声は震えてたけど……。





「……お前、昨日街でほかの女を抱いたのか?」

「…………っっ!!」


紳くんが、声のトーンを落としてオレに問いかけた。
朝、紳くんに聞かれたのって……。


「大澤の様子と、お前の昨日の行動を考えれば、それくらいは分かる」

「……あ、」


核心をつかれて、心が震える。
それに……奈緒の様子って・・・。
呆然とするオレに、紳くんが言葉を続けた。


「……俺は、他人の色恋に介入するほど暇じゃない。興味もない。……だが、お前は大事な友人だと思っている。少しは、節介を焼く気にもなる」

「紳、く・・・」

「言っただろう?……鈍すぎると、取り返しのつかないことになると」


それは、兄貴にも言われた言葉。
鈍すぎると・・・?
オレは、何に鈍いんだろう?


奈緒の、気持ち?
それとも……自分の、気持ち?


「奈緒、は・・・?」


泣きそうになりながら、紳くんに向かって口を開く。
すると、紳くんは目を細めてオレを見た。


「……大澤の様子か?」

「奈緒、泣いてた、の?昨日、そんなにひどい……」

「大澤が気になるなら、自分の目で確かめろ」


え……?






いつの間にか、体育館の前についていた。
紳くんに引きずられるように歩いていたオレは、熱気のこもった体育館の入り口に立つ。


……あ、あれ・・・?
普段は男女は別々だけど、合同体育ってことで2クラス分の男女が勢ぞろいしていた。
見慣れたオレたちのクラスのやつらと……なぜか見知った、もうひとつのクラス。





合同体育。
……一緒にやるクラスって……。





「球技大会の相手は、Dクラスだ」





紳くんは、言葉を発すると同時にオレから手を離した。
……こんな偶然、あるんだね。





今日の体育は、奈緒のクラスと合同だったみたい……。






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