Let's 採点 LOVE | ナノ


(Side 奈緒:03)


「壱が好き」
言えばよかったんだよね。


玉砕覚悟で、言える勇気があればよかった。


でも……。
あたしは臆病で・・・。
それに、壱に対して変なプライドみたいなものもあった。





「あたしだけを見て?」
言えたら、どんなによかったかな?


少なくとも、壱はあたしのことを大切には思ってくれていると思うんだ。
あたしも、同じだから。壱には、幸せになってほしいなって思う。
できることなら、その隣を、ずっと歩きたいって思うけど……。


きっとあたしがそう言ったら、壱は傍にいてくれると思うの。
でも、それって違うよね・・・?
あたしはわがままだから……あたしが壱のことを思っているのと同じくらい、壱にも思ってほしいんだ。





「ほかの女の子と寝ないで?あたしに、何をしてもいいから」
言えないよね、こんなこと。
あたしは、壱に対して異常ともいえるくらいの独占欲を持ってる。


壱に抱かれた女の子は、嫌。
あたしの知らない壱を知っている女の子に、腹が立って仕方ない。





ミノルくんと寝て、すぐ後悔した。
それ以来は、誰ともそういう関係を持ってない。


抱かれるっていう思い出は、あたしにとっては苦痛以外の何物でもなかった。
……まあ、半ば自暴自棄になって抱かれるっていう、昼ドラのOLさんみたいなことしたんだもんね。
いい思い出になるわけないんだけどさ。





……とにかく。
壱とあたしは、表面上は今までと同じ付き合い方をした。
苦しくて、外出中の壱を待っている間泣いてしまうこともあったけれど……。
でも、壱を失うことの方が怖くて、動けなかった。


「好き」
「愛してる」
「あたしを見て」


そんなセリフは言えなくて……。
「一番大切な存在だけど、恋仲ではない」っていう、ふわふわした状態を続けた。





うん、そうなの。
壱に最初に言った「50点」は、別に壱への点数ってわけじゃないんだ。
「あたしと壱の関係」なの。








「なーなー、奈緒?漫画よりもっとイイことしよ?」


6月の頭、壱の部屋でくつろいでいたら、そんなことを言われた。
壱が、何を思ってそんなことを言ったのかは、分からない。
でも、言われた瞬間、あたしの心臓は死にそうなくらい音を立てた。
……誘い方が軽すぎて、泣きそうになったけど……。


「なおなお、襲ってもいい?」

「あんまり良くないんじゃないかな?いっちゃん」


悟られないように、ふふって笑って。
壱の顔を見ていたら、自分が何を言うか分からなかったから、漫画に視線を落とした。


「なんでー?奈緒オレのこと嫌い?」

嫌いなわけ、ない。

「じゃあ好き?」

心が、言うことを聞かないくらい、大好き。

「じゃあいいじゃん」

よくないんだよ。いっちゃん。


あたしに馬乗りになる壱を見て、心臓が爆発するんじゃないかと思った。
……え?本気、なの・・・?


「あー、やっぱり奈緒って可愛いんだ」

“やっぱり”って、何よ。

「ひっどい。オレ、男前って評判なんだけど」

そんなの、あたしだけが知ってればよかったのに。

「奈緒、オレのこと好きなんでしょ?」

だから、好きで好きで仕方ないんだって。

「じゃあ、いいじゃん。エッチしよ?」





……そのときに、思ったんだ。賭けに、出ようって。


50点のこの関係。
ぬるま湯につかって、どっちにも動けない関係を、進めたかった。
壱とヤって、どうなるかは分かんない。
でも……どちらにしても、このままじゃダメだ。


壱が、あたしを“女の子”だって認識してくれたら……。
“幼馴染”として、大事に思ってくれているのを、別の意味で考えてくれたら……。





心を悟られないように、軽口叩いてOKした。
口付けられそうになった瞬間、挑発するみたいに「採点する」って話をした。





動き出した。
100点か、0点。
その二極しかありえない採点ゲームが。





壱が、あたしと「キスしたい」って言ってくれたことが嬉しかったんだよ。
余裕、なくしてくれたのも、嬉しかった。
求めてくれたのも、持ち歩いていたゴムを置いていってくれたのも。
あたしを抱いてから、誰も抱けないって言ってくれたのも……。
教育実習生のさとくんに嫉妬してくれたのも……本当に、嬉しくて・・・。





このまま、100点になって・・・壱が、あたしだけを見てくれて、思いを認識しあえる日が来るんじゃないかって……淡い期待は、どんどん膨らんでいった。
そしたら、今までの思いを全部伝えて、きちんと壱と向き合いたいって思ったんだよ。








だからこそ。


壱が女の子と腕組んでホテルに入るのをみたとき、足元全部崩れちゃったんじゃないかってくらいの衝撃を受けた。


……終わっちゃったんだ、って・・・思った。





結局。
あたしの力不足。
壱は、あたしだけを見てくれることはなかったんだね。
壱にとってあたしは“幼馴染”で。
きっと大事には思ってくれているんだろうけど……でも、あたしが願っていたような感情ではなかった。





ごめんね、壱。
あたしは勝手だから……。


壱とは、もういられないよ。


あたしにとっては、賭けだったんだよ。
100点になって一歩進んだ関係になるか……それとも、もうさよならするか。





50点の関係には、戻らないつもりで「採点」を持ちかけた。
100点か0点かの賭けに、あたしは負けたんだ。





行為が終わったであろう時間を見計らって電話をしたとき……壱は、電話の向こうですごく焦ってた。
たぶん、あたしの様子がおかしいのに、気がついていたんだと思う。


「さよなら」って言った瞬間何かを言いかけた壱。
幼馴染で17年間一緒にいたから、さすがにビックリしたんだよね。


でも・・・でもね、壱。
あたしが抱いてほしかったのは、別の感情なんだよ?
今の関係を踏み越えた感情を……持ってもらいたかったの。





ごめんね、壱。
勝手なのは分かってる。
一緒にDSやってたし、毎月お互いが別々の漫画を買って読みあってた。


そういう関係だって、あたしは大好きだったし、大切にしたかった。


でも、あの日、採点ゲームが動き出した瞬間。
あたしは、それを捨てる覚悟をしてしまった。





壱、本当にごめんなさい。
漫画、読めなくなっちゃったね。
DSで対戦も、できなくなっちゃう。
あたしのお母さんのハンバーグ、壱は好きだって言っていたけど……それも、食べられないかも。





離れるって、決めた。
しばらくはムリだろうけど、いつか好きな人ができたらいいな。
今は考えただけで辛いけど、壱にも可愛いお嫁さんが出来て、あたしにもステキな旦那さんができて……。
それで、いつか茶飲み友達になれたらいいな。


こんな風になったけど、あたしは壱が大好きだから。
壱が大切な存在なのは、きっとずっと変わらない。














両サイドから、あずみと千夏が抱きついてくる。
あずみは、じっとあたしの話を聞いてくれて……。
千夏は、「ばかだね。あんたも篠崎も」ってため息をついた。





2人がいて、よかった。
話したら、少しだけ心が軽くなった。





両サイドの暖かさに包まれて……。
夜が更けた頃、あたしはゆっくり夢の中に入った。








test 5 ⇒ Side奈緒 End
※次の章から壱視点に戻ります。




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