「な、え・・・あ……」
パニック。 頭、回んない。
携帯を持つ手が、ぶるぶる震えた。 ……奈緒・・・どこかで、見てたってこと……?
『きょ、う・・・千夏とあずみと……夏休みの旅行計画立てようと思ってね。街、出てたの……』
「あ・・・な、奈緒……」
……うそ。 アケミと、ホテル入るとこ……見られてた、の?
『……今、電話平気?』
「え・・・あの……奈緒、オレ……」
『平気?』
「う、うん……」
奈緒の声は……ちょっと、震えてた。 そんでもって、冷たい。 オレは、その声にも若干パニックを起こしちゃって……。そんなオレの焦りの上から、奈緒が言葉を被せる。
『……ごめんね?女の子待たせちゃって……。すぐ・・・終わるから』
「……え?」
奈緒の言葉に、びくりと震える。
……聞いちゃ、ダメな気がする。 怖い……。
「な、奈緒・・・!待って。話なら……オレ、奈緒の家行くから!」
時間が、欲しかったんだ。 整理する時間が欲しかった。 言い訳を考える時間が……欲しかった。
何を言われるか、薄々分かっていたから。 だって……心臓が、破裂しそうだもん。 まだ、何を言われたわけでもないのに……涙が、止まんないんだもん。
『……ううん。電話で、大丈夫。……たいしたことじゃないし』
「待って・・・やだ!」
たいしたことじゃないわけ、ない。
「奈緒・・・お願い。あとで、家に行くから。待って……」
『……あのね、採点・・・なんだけど……』
「ま、待って!お願いだから!!」
『壱……今まで、ありがとね』
ごとん。
心の中で、何かが落ちた音がした。
「あ・・・やだ……ごめ、・・・奈緒……」
『0点。……さ、よな・・・ら』
奈緒の声は、震えていた。 オレが二の句を告ぐ前に……電話は、切れてしまった。
ぷー、ぷー、ぷー・・・
高い電子音が、空っぽの心に響く。 手のひらから携帯が滑り落ちて……かたん、と地に落ちた。
「……な、お・・・」
0点。 これが、結末?
「奈緒・・・奈緒……」
がくがくと、足が震えた。 力、入んない。 ……もう、立ってられない。
ぺたん、と地に座り込んで、呆然としながら携帯を見つめた。
「さよなら」って何? オレと奈緒が……もう、ばいばいってこと?
そんなわけ、ないよね? だって……だって、奈緒とオレは……。
「……シノくん?何、して……。な、泣いてる・・・の?」
ベランダのドアをキイって開けて。 アケミが、オレを覗き込んだ。 そして、ぼろぼろ泣いているオレに驚いたのか、目を丸くした。
「ごめ・・・オレ、用事が……」
ふらふらと立ち上がって、財布からホテル代を取り出す。 そして、アケミに手渡した。
「え、えぇ!?どういう……」
「ごめん・・・行かなきゃ……」
男として、最悪だと思う。 でも、今、奈緒のところに行く以上に、大事なことってないんだ。
……「さよなら」なんて、ウソだよね? だって、オレと奈緒が離れるなんて……ありえないもん。
ホテルを飛び出して、猛ダッシュで奈緒の家に走る。 途中奈緒の携帯に電話をしてみたけれど、『電波の届かないところに……』っていうアナウンスが鳴るだけだった。
結局。 奈緒の家には、おばちゃんしかいなくて。 さっき電話が来て「友達の家に泊まる」って言われたらしい。
すぐに紳くんに電話したけど、「あずみの家にはいないぞ」って言われた。おかんの家にいるのかな……って思って、昔おかんと付き合っていた男に電話番号を聞いて電話したけど、おかんも友達の家に泊まっているらしい。 ……奈緒は、どこにいるの・・・?
その後も、いろんなところに電話した。 でも、奈緒がどこにいるのかはわからなくて……。 心配で死にそうだったけど、あずみちゃんとおかんが傍にいるんだよね・・・?大丈夫、だよね……?
明日……明日、学校で話そう。 大丈夫。ちゃんと……ちゃんと、話をしよう。
その日の夜は、一睡も出来なかった。 「絶対大丈夫」って呟きながら、涙枯れるんじゃないかってくらいに泣いて……。
夜が明けるのを、待った。
test 5 ⇒ Side壱 End ※次のページから、Side奈緒に移ります。
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