――……
学校を出たオレは、久々に1人で街を歩いていた。 普通に家に帰ってもよかったんだけどさ。 なんか、ね。 いろんなことごちゃごちゃしてて……。1人で家なんかにいると、頭ぱーんてなっちゃいそうだったの。
本当は、紳くんと遊びたかったんだけどねー。 ほら、あずみちゃんも遊ぶって言ってたから、紳くんも暇なんじゃないかと思ったのよ。 でも、どうやらやることがあるらしく……。丁重にお断りされちゃいました。 ゆずはもっちろん、女王様の送り迎え。 なんか、ちょっと遅れちゃったとかで・・・めっちゃ急いでたよー。
んー。 なんか、ここに来るのも久しぶりだー。 奈緒とヤったりする前は、結構頻繁に来てたのよ。 最近は、毎日奈緒と帰ってたし……そんな気も起きなかったからねん。
「……あれー?シノくん?」
と、すれ違った女子高生に、声をかけられた。 キャラメル色の髪をくるくる巻いた、女の子。 ……けばい・・・。
「んー?誰だっけー?」
なんだか見覚えがあるんだけど……誰だ? しかも、オレのこと知ってる風だし……。
「……う、わあ。シノくんって、人でなしって有名だけど・・・ひどいね」
「ご、ごめんなさい?」
「・・・もー。でも、かっこいいから許す!」
へらっと笑った女の子は、オレの腕に両腕を絡めて、胸を押し当ててきた。
「1年くらい前かなー?カラオケで声かけてヤったじゃん!」
「……あー、うん。そうだったねー」
……ごめんなさい。本当は、覚えてないです。
「思い出したあ?アケミだよ、ア・ケ・ミ!!」
「うんうん。覚えてるってばー」
すんません。名前いわれても、覚えてないんですよー。
「ねね、シノくん暇?」
「んー?・・・うーん……」
暇、です。 見まがうことなく、暇です・・・が! このパターンは分かってるんですよ。……お誘い、ですね。
「暇っちゃ暇・・・なんだけどお。……ごめん。ノらないから・・・」
今、奈緒以外抱ける気がしないんだよ。 だから・・・ごめんね?
巻き疲れた腕をやんわり離そうとすると、アケミ?は、さらにきつく腕を絡めてきた。
「……あの噂、本当だったのー?」
「噂?」
オレの噂? ……どんな噂ですか?
ちょっと前に人妻に手出したって噂が流れちゃったことがあったけど・・・。 あれ、嘘だからねん?
「シノがマドンナと付き合ってるって!」
「…………奈緒?」
マドンナって・・・奈緒のことだよね? え?……えー!!??
「あ、奈緒とか言っちゃって!やっぱりあの噂、本当だったんだー。周りの男が、嘆いてたんだよねー。あのマドンナが、シノなんかに奪われたって・・・」
オレ、なんか……? そりゃ、そうだ。シュンヤも言ってた。奈緒は、今一番人気だって。 そんな奈緒が、よりにもよってオレみたいな下半身男(自分で言っちゃったよ)と付き合ってるなんて、考えたくもないんだろう。
「ざーんねーん。マドンナ相手じゃ、勝ち目ないしねー」
ぱっと手を離したアケミは、ひらひら手を振って、歩き出した。
オレは……オレは、アケミの手をぱっと掴む。
「え?・・・何?」
びっくりしたようにオレを見上げるアケミ。 オレは、彼女のからだをチラッと見た。
……うん。顔も、奈緒ほどじゃないけど美人系だし、スタイルも・・・かなりいい。 ……たぶん、ヤれる。
「いーよー」
「……え?」
驚いたように口を開くアケミに、笑いかけた。
「オレ、奈緒……マドンナと付き合ってるわけじゃないしー。今暇だから、ホテル行こ」
「ほ、本当?」
言った瞬間、アケミが嬉しそうに笑った。
「じゃ、満足させてあげる」
「……んー。期待、してるー」
再度腕を回してくるアケミに、オレはなにも言わなかった。 考えていたのは、奈緒のこと。
奈緒以外とヤれないのは、まずいと思った。 だって、オレ・・・奈緒を彼女にしたいわけじゃないもん。 ……奈緒が、オレ以外の誰かのものになるなんて、もっと嫌だけど……。
矛盾してるのは分かってるんだ。 奈緒が誰かのものになるのはいやだけど、自分のものにするのも怖い、なんて。
だから、ね。 一回思考を止めることにしたんだ。 考えないように、しちゃおうと思ったの。
奈緒以外とヤれないなら、なんとかしてほかの子を抱く努力をすればいい。 そんな短絡的なことをね、考えたんですよ。
考えてもみなかった。
オレとアケミが腕組んでホテルに入っていくのを見た奈緒が何を思うかなんて……考えもしなかったんだ。
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