「奈緒・・・ごめん。意味、分かんないよ」
頭の中、パニックだ。 つまり……どういうことなの?
「だからぁ、あのときのいっちゃんは100点だったのお」
「あの、とき・・・?」
あのときは、100点だった? それで、今は85点なの・・・?
「な、なんで・・・?奈緒には、ほかに100点の人がいるんじゃないの?」
奈緒の顔を覗き込むようにして言うと、奈緒はちょっとびっくりしたような顔をした。
「……え?いるわけないじゃん」
「いるわけ、ない?」
「うん。だって、点数なんかついてんの、いっちゃんだけだもーん」
「え?なん・・・?」
ごめん、奈緒。 本当に、意味わかんないんだ。 だってオレは……ちょっと前まで50点で……。 奈緒に、キスする資格もなくて……。 でも、奈緒と1度キスをしている。
……ごちゃごちゃだ。
「だからぁ、そもそもあたしが一生着いていく気持ちになるのなんて、いっちゃんだけなのー」
ちょっと苛立ったように言う奈緒。 それを聞いて、オレの心臓はどくんと音を立てた。
「……え?」
「もー!だから、そもそもあたし、いっちゃん以外を100点にする気なんてないんだからぁ」
「な、お?」
「あたしが、一生着いていきたいくらい大切に想ってるのなんて、今も昔もいっちゃんただ1人だよ」
「あ・・・え……?」
言葉が、出てこない。 なに?……奈緒は、なにを言ってるの?
「あたしは、ずっといっちゃんだけが大好きだよ」
整理ができていない頭に、奈緒の言葉が響く。 一旦落ち着いた涙腺が、また緩んだらしい。 ぼろぼろと、涙が落ちてくる。
「また泣くー。……もー」
奈緒の唇が、オレの頬に触れた。 びくり、と震えているうちに、奈緒の唇が、オレの涙を吸い取る。
「ずっと、いっちゃんが大好き。昔から今まで、その気持ちが変わったこと、ないよ」
「オ、レ・・・だって、そうだよ」
「ほんとー?その割りに、女の子といっぱいエッチしてんじゃーん」
言いながら、奈緒がくいって口角を上げた。 でも、眉は下がっていて……すげえ、悲しそうな顔だった。
「だって・・・奈緒は……」
だって奈緒は……女の子、じゃないから。 奈緒は、「奈緒」だから。 「彼女」とか、そんな風に言葉にできるような存在じゃない。 大事なんだ。奈緒が、大事。
オレの、真っ黒の心で壊したくない。 「彼女」なんて、そんなカテゴリにおさまって欲しくない。
……ほかの人に、触って欲しくない。 全部、オレのものになってほしい。
「奈緒は・・・奈緒は……」
言葉が、見つからない。 オレは、泣きながらうわごとみたいに奈緒の名前を呼んで、言葉を探した。
そんなオレを見て、奈緒は・・・笑った。
「昔みたいに、いっちゃんを信じたいんだよお。ただひたすら、いっちゃんだけを見ていた、あの頃みたいになりたいの」
「奈緒・・・」
奈緒の腕が、オレに巻きついた。 肩口に、奈緒の顔。 オレも、条件反射みたいに奈緒の細いからだを抱きしめる。
「ずっと、大好き。いっちゃんだけが、好き。……だから、お願い。100点に戻って?」
「な、……」
「あの頃みたいに、いっちゃんを信じさせて?……あたし、だけを見て?」
そこまで言った瞬間、奈緒のからだが、ぐらりと揺れた。 オレに巻きついていた腕の力は緩んで、右方向に傾く。
「奈緒・・・?」
そして、こてん・・・と、床に横になってしまった。 くーくーという寝息。 ……酔って、寝ちゃったんだ……。
眠っている奈緒に、かけぶとんをかけた。 そして、じいっと奈緒の顔を見る。
奈緒のファーストキスの相手は、オレだった? 奈緒が、点数なんてつけてるのはオレだけ? 奈緒が、一生着いてく気持ちになるのは……オレ、だけ?
口元を、手のひらで押さえつける。 ……どういう、こと?
昔みたいにって……オレを、信じたいって・・・どういうこと?
ぶるりと、体が震えた。
奈緒・・・奈緒は、どうしたいの? オレは……奈緒を、どうしたいんだ?
優しくしたい。 甘やかしたい。 ドロドロに、溶かしたい。
めちゃくちゃにしたい。 傷つけたい。 壊したい。
ほかのヤツに、触られたくない。 オレのものになってほしい。
奈緒が、ほしいんだ。 でも、これが“恋愛感情”なわけない。
こんな、ドロドロしているわけない。 だってこんなの……こんな感情を抱いて、奈緒といられるわけない。
オレは、奈緒を抱いてから、一度もほかの女に手を出してない。 ……手を、出せない。
奈緒をはじめて抱いたとき、今まで感じたことないくらいに、相手を求めた。 欲しくて欲しくて仕方なくなって……。
奈緒には、もう手を出さないほうがいいかもって思ったりもした。 でも、無理なんだ。 奈緒が目の前にいると、どうしても欲しくなってしまう。
涙が、止まらない。 どうしたらいいのか、分からない。
「奈緒・・・戻って欲しいって、どういうこと、なの……?」
眠っている奈緒に、問いかける。
「奈緒……?」
オレ、どうすればいいの?
test 4 ⇒ End
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