「あはっ、」
奈緒が声を出して笑った。 ……なに?
「奈緒・・・?」
「誰って……いっちゃんが、それを聞くの?」
唇を三日月形にして、奈緒が笑う。 ……え?どういう、こと?
「き、聞いちゃダメ……?」
「ダメってことはないけど……やっぱり、変だよお」
けたけたと笑う奈緒。 え?え……?
「な、奈緒は・・・100点の人しかキスさせないんでしょ?」
「んー?もっちろん!」
「……100点の人なら、何をされてもいいんでしょ?・・・一生、ついていくんでしょ?」
「そうだよお」
その言葉を聞いて、ぐっと喉が詰まってしまう。 それでも……聞かなきゃ。 オレは、目をぎゅって瞑った後、はあっと息を吐き出した。 そして、一呼吸置いてから、奈緒へ問いかける。
「オ、レは・・・何点?」
「85点、だよ」
泣きそう……。
つか・・・ごめん。 オレの涙腺って、そんなに固くないんだ。 ……泣きそうっていうか・・・泣くよ。
「い、っちゃん・・・?」
きょとんとした奈緒が、オレの頬に手を添える。 そして、伝っていた涙を拭うと、心配そうに口を開いた。
「どうしたの・・・?泣いてるの?」
「……っ、泣い、てる・・・よ」
そりゃ、泣くよ。 だって……世界で一番大切な子に、100点の人がいるって分かったんだもん。 オレより・・・大事な人がいるって、分かったんだもん。
奈緒は、処女じゃない。 ……ファーストキスも、済ませてる。
じゃあ、オレは奈緒の何を奪えばいいの?
「なんで?」
オレの胸中を知らない奈緒は、きょとんとして言った。
「……オレが、85点だから」
口にした瞬間、涙腺が崩壊したらしい。 自分でも驚くほど、涙がぼろぼろ落ちてきた。 ……オレ、一応男なのに・・・。情けなさ、すぎ。
「くっ・・・」
堪えようと思っても、堪えきれない。 奈緒の目の前で、オレはひたすら泣き続けていた。
「泣かないでよ、いっちゃん・・・」
と、奈緒の胸元に、顔が押し付けられた。 ……奈緒が、抱きしめてくれてるんだ。
「なお・・・」
それが、嬉しいんだけど、悲しい。 奈緒の背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめた。
「泣かないでよお。また、100点に戻ればいいじゃん・・・。あと、ちょっとじゃん……」
「だって、100点になったところで、奈緒には…………『また』?」
え、え? 今、奈緒「また」って言った?「戻ればいい」って言った? オレ、一回でも100点になったことあったっけ……?
「な、お・・・?」
「ん?」
オレが顔を上げると、奈緒が心配そうにオレを覗き込んでいた。 ……どういうこと、ですかね?
「奈緒って……100点の人とキスしたんでしょ?」
「そうだってばー」
「それって・・・誰?」
尋ねると、奈緒はぷーっと口を膨らませた。
「忘れてんのお?」
「・・・忘れ?」
「したじゃん……。小学校のとき」
「…………はい!!??」
驚いて声を荒げると、奈緒はぶすっとしてオレを睨んだ。 え?え??……どういう、こと?
「え?してな、いよね?……どういうこと?」
「だからー、いっちゃんと、キスしたじゃん。この部屋で」
「う、うそ・・・。だって、最初に奈緒とシたときも、奈緒キスはダメって……」
「あんときじゃないってばあ。小学校のとき。……将来の夢の話してて……」
「…………あ!!」
と、唐突に思い出してしまった。 あれ・・・確か、小学校3年生のときだ。 オレと奈緒、一緒に遊んでて…… 奈緒の将来の夢を聞いたら、「お嫁さん」って言ってたから……。 「じゃあ、ボクがなおなおをお嫁さんにする」って言って、キス・・・した。
「……した、ね」
「思い出したあ?」
オレを睨むようにしながら、奈緒が言う。 ……思い出した。 思い出したよ。でも・・・意味が、分かんない。
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