奈緒と一緒に、帰り道を歩く。 最近はお決まりになってきたけど……なんか、ちょっと緊張する。 でも……こうやって帰りも奈緒と一緒にいられるのは嬉しいんだ。 高校に入って、オレが遊ぶようになっちゃってから……一緒に帰ること、ほとんどなかったから。
「……奈緒んちって、今日おばさんたちいるの?」
奈緒のほうをチラッと見て、聞く。 すると、奈緒はクスって笑って、ぶるんと首を振った。
……あ、いない・・・んだ。
「……でも、今日は出来ないよ」
「え・・・?」
と、奈緒がちょっとだけ眉を寄せて言った。 ……はい?どういうこと?
「んーとね、今日、アレだから」
「アレ・・・?……あ、」
アレ、と聞いて、一瞬何のことか分からなくなる。 そして、唐突に悟った。
……せーり。
「そ、そっか。んじゃあ、しょうがないよねー」
「そう、だね」
そっか・・・。今日は、シないのか。 ……なんか、ちょっとほっとした気分。
オレ、今奈緒への気持ちがよく分かんないから。 このまま、奈緒のこと抱き続けたら……つか、もし100点になっちゃったら……。
オレ、怖いんだ。 100点を採ったときの約束。 「“トクベツ”になりたいってわがまま言って、なんでも愛の言葉を囁く」 ……それが、怖い。
だって、奈緒はもう“トクベツ”だもん。 世間一般の“トクベツ”じゃないんだ。 ……オレが今まで抱いてきた女の子たちがなりたがった、“トクベツ”……つまり、「彼女」ね。 奈緒は、彼女なんかより、ずっと・・・ずーっと上なんだから。
奈緒が、もし“彼女”になったら……。 オレ、どうするんだろう? それが、一番自然なのかもしれないけど……。 オレ、奈緒以上に好きになる女の子、いないと思うし。
でも、奈緒への感情を“愛”だって認めたら。 いまオレが抱いてる、くろーい感情を“恋愛感情”って認めたら……。
オレ、恋愛ってよくわかんないんだ。 でも、紳くんとか譲見てると、幸せなことなんだっていうのは分かる。
オレがね、奈緒に抱いてる感情は、きっと恋じゃない。 だって、これが恋だったらオレ……奈緒と、幸せになれないもん。
……うぅ、支離滅裂だぁ・・・。 何考えてるのか、よく分かんなくなってきた……。
とにかく、何を言いたいかって、奈緒がせーりでよかったってこと! ……ま、微妙なんだけどね・・・。
「……ち?・・・壱?」
「あ、・・・ご、ごめん。なに?」
……やべ。オレ、自分の世界に入り込んじゃってたみたい。 思考から現実に戻ってくると、奈緒が不思議そうにオレを覗き込んでいた。 ……可愛いなー。
「だから、今日は、寄らない?」
「え?……なんで?奈緒、なんか用事あるの?」
奈緒が用事あるなら仕方ないけど……。 でも、オレはできればもうちょっと一緒にいたいな。 そう思って奈緒を見ると、奈緒はびっくりしたような顔をしていた。
「奈緒?・・・どうしたの?」
「え?……あ、あぁ。今日、できないけど、寄るの?」
「で、できなきゃ・・・寄っちゃダメ?」
不安そうに問いかけると、奈緒はきゅっと唇を噛んで、両手のひらで顔を覆った。
「あー、もう!」
そして、カラッとした声で言葉を発する。 なん、だろう・・・? でも、両手の隙間から見た奈緒の口元、笑ってたし……別に、ムカツクことがあったとかじゃない・・・よね?
「あの・・・奈緒?」
「……いいに、決まってんじゃん」
「え・・・?」
奈緒が、両手をはずして、嬉しそうに笑った。
「できなくても、一緒にいたいって思ってくれるなら、嬉しい。……上がってって?」
いつの間にか、家の前に着いていて……。 笑顔の奈緒が、オレの手を引いた。
「……っ、!!」
たった、それだけなのに……。 手が、熱い・・・。
どうしよう・・・。オレもう、末期かもしれない……。
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