「ちょ…ちょっと!壱!どこ行くの!?」
奈緒の手を引っ張ったまま、ずんずんと廊下を疾走する。 とにかく2人きりになれるところに行きたくて走り回っていたら、第3視聴覚室という部屋に着いた。 視聴覚エリアは、どうやら5時間目の授業がないらしく、授業開始5分前なのにガランとしている。
「壱……?あたし、次授業なんだけど……」
「知ってるよ、そんなの」
つっけんどんに返すと、奈緒がむっとするのが分かる。 でも、でも……。 イラついてるのは、オレのほうだもん!
「何?用ないなら、授業出るから」
「…………」
黙っているオレに呆れたような視線を投げて、奈緒がひらりと手を振った。 オレは、去りかけた奈緒の手をガシッと掴む。
「……食事、行くの?」
「へ?」
低い声で問いかけると、奈緒が眉を寄せて首を傾けた。 オレのイライラなんて何もわかっていない風な奈緒に、腹が立つ。
「あの教生と、食事行くのかよ!?」
「教生・・・?……ああ、さとくん?」
「さと、くん……?」
は、はあ? なんで奈緒が実習生のことニックネームで呼んでるの!?
「教生ってさとくん……鈴木サトシ先生でしょ?」
「知らねえよ!」
さとくんって・・・。 教生と生徒なのに、なんでそんなに親密気なんだよ!
「なんでさとくんなの?」
「へ?……呼べって言われたから?」
「だからって、奈緒は生徒だろ!?なんでそんな仲良くしてんだよ!」
「え?・・・や、でも……」
「なんで触られてんの!?」
「触られてなんか……」
「さっき腕触られてた!!」
奈緒の言うことを途中で遮りまくって、イライラをぶつける。 奈緒は、困ったように微笑んだ。
「……あたしとさとくんと仲良くすることが、壱に関係あるの?」
その言葉を聞いた瞬間、カって頭に血がのぼった。 だってだって……奈緒が教生と仲良くしてただけなのに、オレめちゃくちゃむかついてたんだ。 なのに、それを関係ないなんて言われたら……。
自分でも良く分からない感情が、胸ん中をぐるぐるする。 どろっとした真っ黒の感情がふつふつ沸いてきて、掴んでいた奈緒の手を引っ張って、視聴覚室の机に奈緒を押し付けた。
「……っ!?」
オレの予想外の行動に、奈緒が言葉を失う。 オレは、しゅるってネクタイを外すと、机に覆いかぶさるように伏せている奈緒の両手を取って、ひとまとめにして縛った。
「……い、ち…?」
自由にならない手を必死に動かしながら、奈緒がオレを見る。 でも、オレの心は黒い感情でいっぱいで、オレを見つめてくる奈緒の顔に、さっきの教生の姿が被った。
奈緒のことは、好きとかそういう言葉で表せないほど、大切に思ってる。 でも、アイツに触られた奈緒は、それに匹敵するくらいむかつく。
驚いたように見上げてくる奈緒を見て、オレはにこりと笑った。
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