ぐしゃり、
「っ、……!! っっ、――!」
ぐしゃ、べちゃっ
「…っ、! ――っ、!!」
べちゃっ、べちゃあっ!
「っ、・・・! ――っっっ、!!!」
「あはっ。かーわい」
始まってすぐに、わたしは安易に頷いてしまったことを後悔した。 大スクリーンに映るのは、赤やら茶色やらのべちょっとした物体。目を閉じても、とても書き文字では表せないくらい鳥肌の立つような擬音が耳に入る。 声も出せずに固まっているわたしを横目に、禅さんは楽しそうに笑っていた。
館内は、結構混んでいて・・・。わたしは、エグいホラーなんて見て何が楽しいんだー! と心の中で文句を言いつつ、禅さんと一緒にチケット売り場に並んだ。 そんなわけで、後ろのほうの客席は全部埋まっていて・・・。禅さんがにこにことしながら買ったチケットを見ると、禅さんとわたしが座るシートは、最前列のど真ん中。「周りに人がいないほうが、都合いいでしょーう?」なんて笑う禅さんにはてなマークを浮かべつつも、重い足を引きずって3番シアターに向かった。
禅さんの思惑通り、一番前の列にはわたしたち以外誰もいなくて・・・。……というか、後ろ3列くらい空いていましたよ。 そんな一番前の列のど真ん中、楽しそうな禅さんの隣に、恐々ながらわたしも腰を下ろす。
禅さんに差し出されたポップコーンに手を伸ばして、好きな映画の話なんかしながらはじまるのを待った。 ファンタジー映画の予告にちょっとだけ心が軽くなり、「フィクションだし、意外といけたりするかもだよね? これを気に、ホラー&スプラッタ映画への苦手意識をなくせばラッキーだよ!」なーんて思いつつ、目の前に広がる大スクリーンをじっと見た。 ……本当、のん気でした、あの時のわたし。
映画が始まった瞬間……わたしの淡い希望は、塵となった。 映画は、単純なゴースト系ホラーではなく、スプラッタも混じった非情にエグいものでした。おどろおどろしいBGMと共にはじまった映画。スタートから、スクリーンは大変なことになっている。 口にするのもおぞましい画、怖さ100倍のBGM、ぐちゃりという擬音・・・。 わたしは、下を向いて、両耳を手のひらで塞いだ。
「だーめだよう」
一瞬聞こえなくなった音は、禅さんの笑みを含んだ声と共に復活した。 禅さんは両手でわたしの両腕を掴んで、それを一まとめにする。
「っ、・・・!」
「仁菜チャンの両手は、耳を塞ぐためじゃなくて、俺の腕を掴むためにあるんだよう?」
笑いながら、小声で言った禅さんは、一まとめにしたわたしの両手を自身の腕に絡ませた。 切羽詰ったわたしは、条件反射で禅さんの腕をぎゅうっと掴む。
「泣いちゃったの? 涙腺弱いなー」
「ひっ!」
恐怖のせいか、いつの間にか涙がこぼれていたらしい。禅さんは楽しそうに笑いながらわたしの涙を指摘すると、頬をべろりと舐めた。
「んもう。仁菜チャンってば、色気ないよう」
「い、ろ・・・けって!」
ぐしゃあっ、
「っっっ、!!!」
「たーのしー♪」
こんなところで、色気も何もないと思う! でも、耳を塞ごうとしても禅さんに阻まれちゃうし、目を閉じると禅さんの横槍が入るしで、本当どうにもならない状況だっ。 わたしは、条件反射的に掴んだ禅さんの腕をさらにぎゅっと掴んで、できるだけ音が聞こえないように、視界に入らないようにと、禅さんの二の腕に顔を押し付けた。
「っ、うぅ・・・」
「ん? ・・・ふふ、役得だーね」
……なんだか、朝も同じ言葉を聞いたような気がする。
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