いろいろな人に、「白髪の美形」との関係を聞かれる以外は、いたって平凡に1日が過ぎた。 ……無断欠席のこと、先生に怒られちゃったけど。
掃除が終わって、今は帰りのSHRの時間。 ぼーっと先生の話を聞いていると、窓際がざわざわと騒がしくなった。 何事? と、そちらに目をやる。
「ねえ、門のところにいる人、めちゃくちゃカッコよくない?」
「芸能人かな? っていうか、あの髪色って仁菜の……」
「「白髪の美形!!」」
ガタンッ!
その言葉を聞いた瞬間、ちょうど真ん中あたりの席に座っているわたしと、廊下側の一番後ろの席の宙くんが、同時に立ち上がった。 連絡事項を話していた先生が、目を丸くしてこちらを見ている。
「瀬下、麻生……どうした?」
「す、すみません……」
「すんません」
先生の声を聞いて我に返り、慌てて席に座りなおす。 で、でも……。でも、さっきの会話に出てきた、「白髪の美形」というフレーズ。窓際に座る女友達が、ちらちらとこちらを見ているのがわかる。 もしかして……もしかして!
「じゃあ、今日はこれまで」
「起立、気をつけ……礼!」
「「「さよーならー」」」
礼をした瞬間、わたしは窓際へと走った。 右後方がガタガタ言っているところを見ると、おそらく宙くんも走っているんだろう。
「仁菜!」
「ご、ごめんっ!」
話しかけてきた友人に謝罪をしながら、窓を開ける。 そして、門のところに目をやった。
「……!」
「ぜ、禅・・・!?」
ちょうど窓際に着いたらしい宙くんが、わたしの真後ろで声をあげる。 ……門のところに立っていた「白髪の美形」は……予想通り、禅さんだった。
驚きつつ、「まあ、朝だって迎えにきてくれたし……」という気分で禅さんを見ていると、門にいた禅さんは、ふと視線を上げた。 その視線は、バッチリわたしをとらえる。
は、や、く。
声を出さずに、禅さんがパクパクと口を動かす。 ひらひらと手を振られて、わたしは思わず手を振り返した。
「仁菜! あの人!?」
「どういう関係!?」
わたしと宙くんの様子に気づいたらしいクラスメイトが、こぞって窓際に集まってくる。 禅さんの姿を見た瞬間、芽衣をはじめとした友人数人が、わたしに詰め寄ってきた。
「あ、……っと」
答えあぐねて、チラッと禅さんに視線を投げる。 すると、禅さんはぷくっと口を膨らませて「来い来い」と手を振った。 い、急いで行かなきゃ!
「ご、ごめんっ! あとでちゃんと話すからっ!!」
「あ、仁菜!」
好奇心でキラキラしているクラスメイトの合間をすり抜けて、わたしは走り出した。自席からカバンをとると、脱兎のごとく教室を飛び出す。 禅さん待たせたら……なにをされるか!
慌てていたわたしは、宙くんがじっと禅さんをにらんでいたことなんて、まったく気づかなかった。
「やほー、仁菜チャン。待ちくたびれたーよ」
「ど、どうしたんですか!?」
「かわいい恋人とデートしようと思って」
にこり、と笑った禅さんは、わたしの頭を撫でながら言った。 “デート”なんていうかわいらしい言葉に、思わず力が抜けてしまう。
「……うー」
「仁菜チャン、忙しいの? まあ、忙しくても今日はデートするんだけどね」
なんてわがままな! 無理だとは分かりつつ、どうにか反抗したくなる。
「……1週間後がテストなんで、勉強したい・・・です」
「じゃあ、デートのあとうちにおいでよ。勉強、教えてあげるからさー」
「禅さんの、おうち・・・!」
危険すぎるお誘いを聞いて、真っ赤になったわたしを見て、禅さんはクスクスと笑った。 それから、人目も気にせずにぎゅっとわたしを抱きしめる。
「わっ!」
「かーわいーっ。そんなに期待されると、手を出したくなっちゃうんだけど……」
「し、してませんっ!」
校門前で、こんなこと! 禅さんを引き剥がそうと暴れるわたしを、禅さんは離してくれない。 朝みたいに、わたしの耳元に唇を近づけた。
「あはっ。だいじょうぶ、大丈夫。ちゃんとお勉強しよーね」
「う、ひゃんっ!」
「喘がないでよう」
べろり、と耳を舐められて変な声を出すと、禅さんは耳元で楽しそうに笑った。
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