寵愛α | ナノ

(05)


いろいろな人に、「白髪の美形」との関係を聞かれる以外は、いたって平凡に1日が過ぎた。
……無断欠席のこと、先生に怒られちゃったけど。


掃除が終わって、今は帰りのSHRの時間。
ぼーっと先生の話を聞いていると、窓際がざわざわと騒がしくなった。
何事? と、そちらに目をやる。


「ねえ、門のところにいる人、めちゃくちゃカッコよくない?」

「芸能人かな? っていうか、あの髪色って仁菜の……」

「「白髪の美形!!」」


ガタンッ!


その言葉を聞いた瞬間、ちょうど真ん中あたりの席に座っているわたしと、廊下側の一番後ろの席の宙くんが、同時に立ち上がった。
連絡事項を話していた先生が、目を丸くしてこちらを見ている。


「瀬下、麻生……どうした?」

「す、すみません……」

「すんません」


先生の声を聞いて我に返り、慌てて席に座りなおす。
で、でも……。でも、さっきの会話に出てきた、「白髪の美形」というフレーズ。窓際に座る女友達が、ちらちらとこちらを見ているのがわかる。
もしかして……もしかして!


「じゃあ、今日はこれまで」

「起立、気をつけ……礼!」

「「「さよーならー」」」


礼をした瞬間、わたしは窓際へと走った。
右後方がガタガタ言っているところを見ると、おそらく宙くんも走っているんだろう。


「仁菜!」

「ご、ごめんっ!」


話しかけてきた友人に謝罪をしながら、窓を開ける。
そして、門のところに目をやった。


「……!」

「ぜ、禅・・・!?」


ちょうど窓際に着いたらしい宙くんが、わたしの真後ろで声をあげる。
……門のところに立っていた「白髪の美形」は……予想通り、禅さんだった。

驚きつつ、「まあ、朝だって迎えにきてくれたし……」という気分で禅さんを見ていると、門にいた禅さんは、ふと視線を上げた。
その視線は、バッチリわたしをとらえる。


は、や、く。


声を出さずに、禅さんがパクパクと口を動かす。
ひらひらと手を振られて、わたしは思わず手を振り返した。


「仁菜! あの人!?」

「どういう関係!?」


わたしと宙くんの様子に気づいたらしいクラスメイトが、こぞって窓際に集まってくる。
禅さんの姿を見た瞬間、芽衣をはじめとした友人数人が、わたしに詰め寄ってきた。


「あ、……っと」


答えあぐねて、チラッと禅さんに視線を投げる。
すると、禅さんはぷくっと口を膨らませて「来い来い」と手を振った。
い、急いで行かなきゃ!


「ご、ごめんっ! あとでちゃんと話すからっ!!」

「あ、仁菜!」


好奇心でキラキラしているクラスメイトの合間をすり抜けて、わたしは走り出した。自席からカバンをとると、脱兎のごとく教室を飛び出す。
禅さん待たせたら……なにをされるか!


慌てていたわたしは、宙くんがじっと禅さんをにらんでいたことなんて、まったく気づかなかった。








「やほー、仁菜チャン。待ちくたびれたーよ」

「ど、どうしたんですか!?」

「かわいい恋人とデートしようと思って」


にこり、と笑った禅さんは、わたしの頭を撫でながら言った。
“デート”なんていうかわいらしい言葉に、思わず力が抜けてしまう。


「……うー」

「仁菜チャン、忙しいの? まあ、忙しくても今日はデートするんだけどね」


なんてわがままな!
無理だとは分かりつつ、どうにか反抗したくなる。


「……1週間後がテストなんで、勉強したい・・・です」

「じゃあ、デートのあとうちにおいでよ。勉強、教えてあげるからさー」

「禅さんの、おうち・・・!」


危険すぎるお誘いを聞いて、真っ赤になったわたしを見て、禅さんはクスクスと笑った。
それから、人目も気にせずにぎゅっとわたしを抱きしめる。


「わっ!」

「かーわいーっ。そんなに期待されると、手を出したくなっちゃうんだけど……」

「し、してませんっ!」


校門前で、こんなこと!
禅さんを引き剥がそうと暴れるわたしを、禅さんは離してくれない。
朝みたいに、わたしの耳元に唇を近づけた。


「あはっ。だいじょうぶ、大丈夫。ちゃんとお勉強しよーね」

「う、ひゃんっ!」

「喘がないでよう」


べろり、と耳を舐められて変な声を出すと、禅さんは耳元で楽しそうに笑った。






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