寵愛α | ナノ

(04)


「禅さんが、お兄ちゃんなの・・・?」

「……やっぱり禅かよー・・・」


宙くんの爆弾発言に驚愕しながら問いかけると、宙くんは頭を抱えてその場に座り込んだ。
「あ゛ー」と声をあげる宙くんに倣って、わたしも人気のない廊下に座り込む。


「兄貴、だよ。一応の」

「一応・・・?」

「あー、っと・・・。ちょっと複雑な家庭環境で……母親は違うんだ」


“一応”という言葉の詳細は、聞くべきではないんだろう。わたしは口をつぐんで、宙くんが口を開くのを待った。
宙くんは、抱えていた手の隙間からわたしを見上げる。


「禅と、どういう関係?」

「……え、っと・・・」


それから、宙くんは先ほどと同じ問いをわたしに投げかけた。
正直、なんて言っていいのかわからないけど、禅さんと宙くんが兄弟である以上、いつかはバレるんだろうし……。


「……ぜ、禅さんは・・・」

「うん?」

「禅さんは、……彼氏、だよ」

「は、はぁあっ!?」


言った瞬間、宙くんがわたしの肩を掴んだ。
信じられない、という表情で、わたしを見る。


「禅が、彼氏!?」

「う、うん・・・。一応、そうかな」

「いつから!? つーか、禅と知り合いだったのかよ!? どこで!? いつ知り合ったんだ!?」

「え、と……昨日、かな」


わたしをガクガクと揺さぶりながら、宙くんは矢継ぎ早に質問をぶつける。
わたしは、舌を噛まないように注意しながら、すべてのはじまりである「昨日」というフレーズを吐いた。


「昨日って……お前、学校休んでたよな?」

「う、うん」

「禅と一緒にいたの?」

「……うん」


頷くと、宙くんはまたもや頭を抱えてしまった。


「……禅とは、どこで知り会ったんだ?」

「で、電車の中」

「いつ?」

「……昨日」

「…………はい? つーか、一応彼氏? って、どういうこと?」

「う、……」


いくら禅さんと宙くんが兄弟とはいえ、この辺のことを話すのははばかれる気がした。
押し黙ってしまったわたしを見て、宙くんは深いため息をつく。


「……事情あり?」

「そう、なんです」

「禅のこと好きなの?」

「…………、」

「なんでそこで黙るんだよ」


宙くんの質問は、難しい問題ばっかりだ。
答えられずにうつむいていると、宙くんはわたしの頭に手を乗せて、軽く笑った。


「……ま、麻生が言うまで、無理には聞かない」

「ご、ごめん・・・」

「別に、謝ることじゃないだろ」


ポンポンと頭を撫でた宙くんは「教室に戻るか」と言った。
わたしは軽く頷いて、宙くんの後ろをついて歩き出す。


「……なあ、麻生」

「え?」


しばらく黙ったまま歩いていると、ふいに宙くんが口を開いた。
教室まで目前となった場所で、宙くんが振り返る。


「あのさ、“一応”の彼氏なんだよな?」

「う、うん?」

「えーと、なんつーか……オレさ、禅のことも知ってるし」

「うん」

「なんかあったら、相談しに来いな? いつでも話し聞くから」

「あ、ありがとう!」


宙くんの言葉に笑顔で返事をすると、宙くんは満足そうに笑った。
……にしても、禅さんと宙くんが兄弟だったなんて……本当に、びっくりだ!






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