「禅さんが、お兄ちゃんなの・・・?」
「……やっぱり禅かよー・・・」
宙くんの爆弾発言に驚愕しながら問いかけると、宙くんは頭を抱えてその場に座り込んだ。 「あ゛ー」と声をあげる宙くんに倣って、わたしも人気のない廊下に座り込む。
「兄貴、だよ。一応の」
「一応・・・?」
「あー、っと・・・。ちょっと複雑な家庭環境で……母親は違うんだ」
“一応”という言葉の詳細は、聞くべきではないんだろう。わたしは口をつぐんで、宙くんが口を開くのを待った。 宙くんは、抱えていた手の隙間からわたしを見上げる。
「禅と、どういう関係?」
「……え、っと・・・」
それから、宙くんは先ほどと同じ問いをわたしに投げかけた。 正直、なんて言っていいのかわからないけど、禅さんと宙くんが兄弟である以上、いつかはバレるんだろうし……。
「……ぜ、禅さんは・・・」
「うん?」
「禅さんは、……彼氏、だよ」
「は、はぁあっ!?」
言った瞬間、宙くんがわたしの肩を掴んだ。 信じられない、という表情で、わたしを見る。
「禅が、彼氏!?」
「う、うん・・・。一応、そうかな」
「いつから!? つーか、禅と知り合いだったのかよ!? どこで!? いつ知り合ったんだ!?」
「え、と……昨日、かな」
わたしをガクガクと揺さぶりながら、宙くんは矢継ぎ早に質問をぶつける。 わたしは、舌を噛まないように注意しながら、すべてのはじまりである「昨日」というフレーズを吐いた。
「昨日って……お前、学校休んでたよな?」
「う、うん」
「禅と一緒にいたの?」
「……うん」
頷くと、宙くんはまたもや頭を抱えてしまった。
「……禅とは、どこで知り会ったんだ?」
「で、電車の中」
「いつ?」
「……昨日」
「…………はい? つーか、一応彼氏? って、どういうこと?」
「う、……」
いくら禅さんと宙くんが兄弟とはいえ、この辺のことを話すのははばかれる気がした。 押し黙ってしまったわたしを見て、宙くんは深いため息をつく。
「……事情あり?」
「そう、なんです」
「禅のこと好きなの?」
「…………、」
「なんでそこで黙るんだよ」
宙くんの質問は、難しい問題ばっかりだ。 答えられずにうつむいていると、宙くんはわたしの頭に手を乗せて、軽く笑った。
「……ま、麻生が言うまで、無理には聞かない」
「ご、ごめん・・・」
「別に、謝ることじゃないだろ」
ポンポンと頭を撫でた宙くんは「教室に戻るか」と言った。 わたしは軽く頷いて、宙くんの後ろをついて歩き出す。
「……なあ、麻生」
「え?」
しばらく黙ったまま歩いていると、ふいに宙くんが口を開いた。 教室まで目前となった場所で、宙くんが振り返る。
「あのさ、“一応”の彼氏なんだよな?」
「う、うん?」
「えーと、なんつーか……オレさ、禅のことも知ってるし」
「うん」
「なんかあったら、相談しに来いな? いつでも話し聞くから」
「あ、ありがとう!」
宙くんの言葉に笑顔で返事をすると、宙くんは満足そうに笑った。 ……にしても、禅さんと宙くんが兄弟だったなんて……本当に、びっくりだ!
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