寵愛α | ナノ

(03)


「ちょ、ちょっと仁菜!」

「へ?」


禅さんへのツッコミの気持ちを胸に抱きながら、教室へと足を踏み入れる。
途端に、なぜか教室がざわついた。
何事かと思っていると、クラスで一番仲の良い友達、芽衣(めい)が慌てた様子でわたしに声をかけてくる。


「なにかあったの・・・?」

「『なにかあったの?』じゃない! 仁菜が芸能人といたって噂になってるよ!」

「げ、芸能人!?」


え? うそ!
わたし、いつの間に芸能人と出会ったの!? サインもらえばよかったよ!


「だ、誰!?」

「名前は知らないけど・・・。カッコいい人!」

「……へ?」

「芸能人レベルにカッコいい人! なんか、奇抜な髪色だったから、芸能人らしいって……。誰!?」


言われた瞬間、ごんっと壁に頭をぶつけてしまう。
……奇抜な髪色って・・・。


「……芸能人じゃない」

「じゃあ誰!? 仁菜とどういう関係?」

「どういう・・・? ……、」


どういう関係? どういう関係って……。
こ、こここ、恋人・・・?


「…………、」


なんか、普通の恋人とは違う気がするし、そもそも彼氏って呼んでいいのか分からないような存在だ。
うーん・・・。どういう関係、だろ?


「おい、麻生!」

「へ? 宙(そら)くん?」


芽衣の質問に即答できず、頭をひねっていると、すごい勢いで宙くんが近づいてきた。
宙くんは、小学校のときからの仲で、一番仲の良い男友達で……、って!


「そ、そそそ、宙くん!?」

「ちょっとお前、こっち来い!」


勢い良く近づいてきた宙くんは、なにも言葉にしないままわたしの手を掴んだ。
そのまま、ぐいっとわたしを引っ張って、教室から出る。
え、えぇぇ!? なに!?


「宙くん、どこ行くの!?」

「……っ、お前、白髪の男とどういう関係だよ!?」

「う、え・・・!? ど、どういうって…、なんで、宙くんがそんなこと……」


宙くんがが引っ張りながら矢継ぎ早に質問をするから、わたしの呼吸はありえないほど乱れてしまった。
舌を噛みそうになって、慌てて口をつぐむ。





「なんでって……!」

「はぁっ、」


人気のないところまで来て、宙くんはようやく足を止めた。
そして、くるりとわたしに向き直る。
動揺しているのか、どことなく焦ったような顔でわたしをじっと見た。


「……お前、オレの苗字しってる?」

「え? 宙くんの? 知ってるよー。たしか、瀬下」

「…………、」

「せ、した…?」


口にした瞬間に、自分で気づいてしまった。
せした・・・瀬下!?


「……白髪の男って・・・禅だろ? 瀬下 禅」

「そ、そうだけど…」

「兄貴だよ。……一応な」

「う、そ・・・」

「ほんと」


はあ、と。
宙くんは、ため息混じりに肯定の言葉をはいた。






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