「ちょ、ちょっと仁菜!」
「へ?」
禅さんへのツッコミの気持ちを胸に抱きながら、教室へと足を踏み入れる。 途端に、なぜか教室がざわついた。 何事かと思っていると、クラスで一番仲の良い友達、芽衣(めい)が慌てた様子でわたしに声をかけてくる。
「なにかあったの・・・?」
「『なにかあったの?』じゃない! 仁菜が芸能人といたって噂になってるよ!」
「げ、芸能人!?」
え? うそ! わたし、いつの間に芸能人と出会ったの!? サインもらえばよかったよ!
「だ、誰!?」
「名前は知らないけど・・・。カッコいい人!」
「……へ?」
「芸能人レベルにカッコいい人! なんか、奇抜な髪色だったから、芸能人らしいって……。誰!?」
言われた瞬間、ごんっと壁に頭をぶつけてしまう。 ……奇抜な髪色って・・・。
「……芸能人じゃない」
「じゃあ誰!? 仁菜とどういう関係?」
「どういう・・・? ……、」
どういう関係? どういう関係って……。 こ、こここ、恋人・・・?
「…………、」
なんか、普通の恋人とは違う気がするし、そもそも彼氏って呼んでいいのか分からないような存在だ。 うーん・・・。どういう関係、だろ?
「おい、麻生!」
「へ? 宙(そら)くん?」
芽衣の質問に即答できず、頭をひねっていると、すごい勢いで宙くんが近づいてきた。 宙くんは、小学校のときからの仲で、一番仲の良い男友達で……、って!
「そ、そそそ、宙くん!?」
「ちょっとお前、こっち来い!」
勢い良く近づいてきた宙くんは、なにも言葉にしないままわたしの手を掴んだ。 そのまま、ぐいっとわたしを引っ張って、教室から出る。 え、えぇぇ!? なに!?
「宙くん、どこ行くの!?」
「……っ、お前、白髪の男とどういう関係だよ!?」
「う、え・・・!? ど、どういうって…、なんで、宙くんがそんなこと……」
宙くんがが引っ張りながら矢継ぎ早に質問をするから、わたしの呼吸はありえないほど乱れてしまった。 舌を噛みそうになって、慌てて口をつぐむ。
「なんでって……!」
「はぁっ、」
人気のないところまで来て、宙くんはようやく足を止めた。 そして、くるりとわたしに向き直る。 動揺しているのか、どことなく焦ったような顔でわたしをじっと見た。
「……お前、オレの苗字しってる?」
「え? 宙くんの? 知ってるよー。たしか、瀬下」
「…………、」
「せ、した…?」
口にした瞬間に、自分で気づいてしまった。 せした・・・瀬下!?
「……白髪の男って・・・禅だろ? 瀬下 禅」
「そ、そうだけど…」
「兄貴だよ。……一応な」
「う、そ・・・」
「ほんと」
はあ、と。 宙くんは、ため息混じりに肯定の言葉をはいた。
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