Side Hayato
――30分前。
「ったく・・・。相原の野郎……」
部屋のソファに座って、悪態をつく。 教室を出た瞬間、歩が相原に連れ去られたんだ。
でも、歩がほとんど抵抗をしていなかったようだし……。 無理に追いかけるのは、やめた。 まあ、あいつが責任もって歩をここまで送るだろうし。
……気に食わないけど。
「生徒会室、か?……マジむかつく」
生徒会の信者に聞かれたら、半殺しにでも合いそうなことを呟いたオレは、1人きりの部屋で、ふうっとため息を吐いた。 最近、なんだかんだと歩とずっと傍にいたから……大丈夫だって分かってはいても、なんだか心配になる。
「……ったく」
それから、自分で言うのもなんだが、独り言がやけに多い。 ……歩、早く帰ってこないかな……。
そんな焦燥感を胸に抱えていたせいだろうか。 オレは、すっかり頭から抜けてしまっていたんだ。
自分が、一応変な男に付きまとわれてるってことを。 それから、生徒会が付けてくれた見張りが、昨日までだったってことも。
コンコン、
歩を待ちながら、部屋のソファに座っていると、ドアが音を立てた。 ……ん?
今、この部屋に訪れる人間が、歩しか思いつかない。 ……カードキー、なくした・・・とか?
とにかく、早く開けてやらなくちゃ。 それで、買い物に行って……今日は、中華系が食べたい気分。 歩に、チンジャオロースでもねだってみよう。
「……おかえ、……!!」
そんなのん気なことを考えながらドアを開けたオレは、思わず固まった。
なんとなれば……目の前にいたのは、例の3人組だったから。
「……お、前!!」
「あれ?なんか普通に開いたんだけど」
「やっほー、颯斗ちゃん」
へらりと笑う3人に、慌ててドアを閉めようとする。 でも、やつらの足に阻まれて、それは叶わなかった。
「なにしてんだよ!?」
「ははっ。颯斗ちゃん、可愛いよな」
「はあっ!?」
言われて、ぞくっと悪寒が走る。 やべえ、コイツ、絶対変態だ。 オレがかわいいとか、ないだろ!! 歩とか翔太ならまだしも……!!
「あのかわいこちゃんは?」
「転入生、いないの?」
「歩?いねーよっ!つーか足どかせっ!!」
これ、いま歩が帰ってきたら、やばいんじゃね? 歩、絶対キレるし……!
オレは、慌てて挟まれた足を蹴飛ばした。 とりあえず、ドアを閉めて、歩にしばらく帰ってこないようにって連絡して……。 それから、寮監と松尾先生に……。
「いって!」
「颯斗ちゃん、ひどいよ」
「うるせえよ!つーか鳥肌立つから、ちゃん付けすんな気持ち悪ぃ!!」
言った瞬間、やつらの目の色が変わった。 獲物を見つけた、ハイエナみたいな目に。
「颯斗ちゃん、強情だね」
「ほら、おいで?」
「ね?」
腕を掴まれて、思い切り引っ張られる。 まずい……!
この学園も長いオレだ。 翔太が一度、過激な連中に攫われて監禁されかかったことは、記憶に新しい。 ……まさか、オレがこんなやつらに狙われるなんて思ってなかったけど。
部屋から引っ張り出されたら終わりだ。 そう思って、オレは足をドアの壁に引っ掛けて、堪えた。
それに、このままじゃ歩が来てしまう。 やばい、本当に! なんでオレ、のん気にドア開けたんだ!!
バチッ!
「ぐっ―――っ、」
思案していたオレは、やつらがスタンガンのようなものをオレにぶつけたことに、気がつかなかった。 裂くような鋭い音。 それから、体に走る衝撃。
くぐもった声をあげながら、オレはその場に倒れた。
「―――っっ、」
意識は、辛うじて飛んでいない。 でも、声は出ないし、力が入らない。
やばい、やばい……!!!
やつらは、かがんでオレを覗き込むと、にやりと口角を上げた。
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