Side Haneru
部屋にこもってパソコンをカタカタといじる。 ……ああ、もう。 早く任務を終わらせて、あゆをこんなところから出してあげたいのに。
「なんだよ、このセキュリティは……」
ずっと、穴を探っているのに……。 ありえないほどのセキュリティシステムで、侵入が困難だ。 理事長室への侵入自体は、あゆやユウさんの身体能力でなんとか行けるかもしれないけど……。 データが入っているパソコンや、金庫……。 そのセキュリティが、オレが今まで突破してきたどのシステムよりも固い。
「これは、長期戦になるかもね・・・」
手元にあったチョコレートをバリッと噛み砕く。 早く、あゆを逃がしたいのに……。
と。
“ピンポーン”
部屋のチャイムが鳴った。 ま、同室くん(名前とか、どうでもいいよね?)の来客だろう。 そう思ったオレは、パソコンから目を逸らさずに、カタカタと指を動かした。
「うぁあっ!?君、転入生の……!!」
……指を動かしはじめた瞬間に聞こえてきたこんな声で、オレはノートパソコン閉めて、ロフトベッドから飛び降りる。 それから、すぐに扉を開けて、眼前の栗色を抱きしめた。
「あーゆーっ」
「わっ・・・!跳!!」
抱きついた瞬間、あゆはオレの胸元に手を当てて、ぐいっとオレを引き剥がした。 ……あれ?いつも、スキンシップを受けてくれるのに。
ということは、余程切羽詰った状況なんだね。
「あゆ・・・なんかあった……?」
「は、跳・・・颯斗が……!」
「……マジかぁ・・・」
「颯斗が、」の言葉で、いろいろと理解してしまった。 あぁ、以心伝心。 ……とか、ふざけてる場合じゃないかな。
「……で?助けに行くって?」
「う、うんっ!」
「んー。オレが行くからぁ、あゆは部屋で待ってらんない?」
「待ってらんないっ!!」
キッと、あゆがオレを睨む。 ……妥協案をぶつけてみたけど、ダメかぁ……。
「歩・・・、」
「三宅くん!」
困ってしまいましたね。 真剣な表情のあゆを見て、どうしたもんかと悩んでいると、あゆの隣室の2人が部屋に飛び込んできた。 ……あぁ、あゆ。急ぎすぎて、全力で走っちゃったんだね。
オレは、あゆに視線を落とした。 真剣な表情で、泣きそうな顔で……オレを、見上げる。
あゆに、危険が及ぶのは、何よりも許しがたい。 でも……颯斗くんになにかあったら、あゆがどうなるか分かんないな。
ということで、最善の方法は……?
「同室者くん、君ぃちょっと向こう行って。あと、翔太くんと、雅くんも」
しっしっと3人に手の甲で合図をして、あゆの肩を抱く。 呆気にとられる3人に、あゆは頭を下げた。
「ごめんっ・・・!ちょっとだけ、待ってて?」
オレの手段は、正攻法じゃないからねぇ。 人に、見られるわけに、いかないのよ。
それを理解しているあゆは、オレの言葉にはてなマークを浮かべる3人に、頭を下げた。
……あぁ、やっぱり雅くんは頭がいいね。 オレの同室者くんの背中を押して、翔太くんの手首を掴んで……同室者くんの個室に押し込む。 頭のいい子は、嫌いじゃないよ。 今、なにをしなきゃいけないのか、彼はきちんと分かってるみたいだね。
「跳、お願い!」
3人がいなくなった瞬間、あゆがオレを見上げた。 ああ、もう。分かったから。 ……そんな悲しそうな顔、しないで?
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