Side Ayumi
――……
すんなりと瀬奈に解放されて(なんか、仕事が本気でやばいらしい)、わたしは自室に戻った。
「颯斗・・・?ごめんね、今日……」
寮の部屋はオートロックだから、中に人がいても、一々カードキーでロックを解除しなきゃならない。 わたしは、部屋に入ってすぐ、いつも颯斗がいるソファに向かった。
バタバタしてたから、みんなに連絡とかできなくて……。 心配かけちゃったなって思ったから。
……でも、颯斗はそこにはいなかった。
「……あれ?」
今日、なんかあったっけ?
「うー、ん……。とりあえず、翔太と冴島くんのところ、行こうかな」
もしかしたら、ちょっと売店に行っているだけかもしれないし。 そう思ったわたしは、とりあえず隣室の2人にも声をかけようと、きびすを返して自室を出た。
「あ、歩!」
「三宅くん!よかった」
チャイムを押して、名前を名乗った瞬間、翔太が弾丸みたいに飛び出してきた。 それから、安堵の顔を浮かべる冴島くん。 うーん。やっぱり、心配かけちゃったんですね。
「もー。歩も相原も、すげえ速いんだもんっ!」
「あ、はは。ごめんねー?」
わたしの腰に手を回した翔太が、ぷーっと膨れる。 やっぱり、隙を見て連絡するべきだったなぁ。
「今日、ご飯なにぃー?」
翔太が、わたしを見上げながら言った。 ……あ、結局、わたしは自炊を始めたんだ。 颯斗と翔太と冴島くんも、食堂はうるさくて、あんまり好きじゃないみたいで、一緒に食べている。 それから、跳もね。お兄ちゃんも、たまに来てくれるけど、基本は教師は別に食べなきゃいけないらしくて……。 みんな手伝ってくれるけど、メインはわたしが作ってます。 料理、好きだし。
「うーん。まだ、考えてない。颯斗と、買い物行こうと思ったんだけど……」
「……え?」
わたしがそう言った瞬間、冴島くんが眉をしかめた。
「颯斗、いないの・・・?」
「え、あ・・・うん。それも含めて、聞こうと思ったんだ」
「あれー?おっかしいなぁ。一緒に帰って、407に入ったと思ったけどぉ・・・」
「三宅くんを待つって言っていたから、外に出るはずもないんだけど……」
「…………っ、」
冴島くんの目に、ふと不安が宿ったのが分かる。 ……たぶん、わたしと同じこと、考えてるから。
「……冴島くん・・・確か、颯斗のストーカーへの見張りって……」
「昨日で、一旦打ち辞めだよね」
「……嘘」
冴島くんとわたしの会話で、ようやく不穏な空気を察した翔太が、ふっと顔を上げた。 それから、不安そうにわたしを見上げる。
「そう、だよ。颯斗、いないの・・・おかしいよ」
「で、でも・・・まさか……」
思い浮かぶのは、ありえない状況。 まさか……颯斗、攫われた?
いやいや、まさか……そんなこと……普通に考えて、ありえないよね?
「……三宅くん、ここは・・・常識が通じない」
「……え?」
半パニックになっていると、ぎりっと歯噛みした冴島くんが、わたしを見上げた。
「……歩、おれ・・・変なやつらに、捕まったことある」
「…………っっ、!!」
そうだ。 だって、始業式で絡んできた不良先輩も……確か、わたしをどこかに連れて行こうとしてた。 跳が言っていたんだ。監禁して、やなこといっぱいしようとしたんだよ、って。
「は、やと・・・!」
違うかもしれない。 でも、その可能性が少しでもあるなら……。
颯斗を、探さなきゃ!!
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