愛☆猫 | ナノ


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Side Hayato



優哉さんの言葉が、頭の中をぐるぐると巡る。


『自分の命より、人の命を守ることを第一に考える』


確かに、そんなの嫌すぎる。
優哉さんや犬飼が心配するのも、すげえ分かる。


……でも、歩がここに来ているのって、要するに品行調査だろ?
そんな……キケンにさらされることって、あるのかな・・・?
まあ、男に襲われる可能性は多いにあるけど……。





オレは、そんなことを考えながら、自室のドアを開けた。


……瞬間、とんでもない光景が目に飛び込んできた。





『あっ、ぁっ、あん、あん・・・』

『オラ・・・もっと啼け』





「…………ふえっ、」


……え?何だコレ?


自室の共同スペースのテーブルには、白いノートパソコンが置いてあった。
その中から聞こえるのは……女のあえぎ声?と、やっすいAVで言いそうな男の煽るような声。


そして、ソファの隅で耳を塞ぎながら泣いているのは、もちろん歩だった。


「あ、あゆみ・・・?」

「う、ぅ・・・はやとぉ……」


オレの気配に気がついたのか、歩が耳を塞ぎながらくるりと振り向いた。
顔を真っ赤にして、泣きながらオレのことを見上げ……やばいやばいやばい……!


「……って!なに見てんだ!?」


つかつかとテーブルのほうに歩いて行って、パソコンを覗き込む。
……予想通り、パソコンの画面に映し出されていたのは、AVだった。


「ふえ・・・やだあっ……」


耳を塞ぎながら、ぶんぶんと首を振る歩。
……あ、


オレは、マウスを操作して、AVの画面を落とした。
途端にやんだ、あえぎ声。
オレはほうっと息をついて、歩を見る。


「歩・・・?」

「うぅ……」


なんでこんなの見てたんだ……?
と思いながらテーブルに目をやる。
すると、小さなメモ用紙に、手書きの文字で卑猥な言葉が書きなぐられていた。


……え?なんすか、コレ?


「歩?もう、切ったから……」


とんと歩の肩に手を置くと、歩はひくりと震えた。
そして、漸く耳元から手をどけると、目を潤ませながらオレを見上げてくる。


「はやとっ・・・」


そして、ぼふんという感触。
歩が、オレの服をぎゅっと握り締めながら、胸元にすがりついてきた。


…………!!!


「し、調べもの・・・っていうか、知識、増やそうと・・・思って……」


そして、嗚咽交じりで何かを話しかけてくる。


「そしたら、知らないこと…ばっかりでっ!……わたし、セックスって、男の人がおちん、」

「ちょちょちょちょ!!それ言っちゃダメだ!!」


危うく放送禁止用語を口走りそうになる歩を慌てて止める。
……無知ってこえぇ。


「……で、・・・動画、あったから……見て、みたらっ、」


……あぁ。
それで、AV見ちゃったのね?
つか、それもしかして有料のとかじゃねえよな……?


「男の人が女の人にひどいこと言うしっ!お尻叩くし!おち○○○を●●●に挿れて、ぐちゃぐちゃするしーっ!!!」


……おっとっと。言っちゃったよ、この子。


「それで、耳ふさいでたの?」

「う、うん・・・。見てられなくて……」


それで、画面を見られなくなっちゃって、ソファの隅で泣きながら顔背けてたってところか。
画面を切ることもできずに。


「……うぅ、」

「……なあ、歩?」

「ん・・・?」


かたりと震えながら、歩がオレを見上げた。
その顔に、うっかり欲情しそうになったオレは、歩と同室である資格がないのかもしれない。


「あの・・・さ。ここにいたら、歩もこういうことされるかもしれないんだよ?」


パソコンを指差しながらそう言うと、歩が目を大きく広げた。


「もし、歩を襲ったやつがいたとして、歩が女だって分かったら……たぶん、こういうことされるよ?」

「……うそ、」

「嘘じゃない。……本当に、危ないんだ」


歩と出会えたのは嬉しいけど……。
でも、歩に危険な目にはあってほしくないし……。
これで任務終了になって歩がいなくなったら、本当に寂しいけどさ!


でも、任務取り消しのほうが、歩は絶対幸せな気がする。


……歩の生い立ち、本当に軽く聞いただけだけど……。
歩の安全とか考えたら、さ。


そう思って言ったけど、歩はちょっと唇を噛んだ後、ふるりと首を振った。





「ダメ。一度受けた任務を放棄したなんて分かったら、うちはどうなるか分からない」

「でも……」

「ありがとう、颯斗。でも……わたしは、やらなくちゃ」


そう言って、歩はにこって笑った。
……明らかに、無理している顔だったけど……。


「……オレ、力になるから。なにかあったら、言え?」

「うん!……ありがとう」





明日からの新学期。
たぶん……本当に、いろいろなことがある。


でも、守らなきゃ。
優哉さんとも約束したし、歩は……女だし。





そう決意したオレは、腕の中の歩に微笑みかけて、ぐっとこぶしに力を入れた。






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