Side Ayumi
「んじゃあ、かーえろっ!」
跳はへらへら笑って、再度わたしの手をとった。 わたしも、こくんと頷いて、跳について歩き出す。
そして、部屋の前まで着くと、跳がにこっと笑った。
「じゃあ、あゆ・・・。明日から、がんばってね?」
「うん!」
ぽんっと、跳の手がわたしの頭の上に乗った。
「あ。……あと、久々のシリアスモードで忘れてたんだけど……」
「へ?」
と、跳が、首を横にかしげて、へらへらしながら口を開いた。
「にゃあって、」
「言わないよ!」
……そう。 そういえば、今日も一番最初にそんなこと言ってたっけ……。 跳は、なんかよくわかんないけど、わたしに「にゃあ」って言ってほしいらしい。 よく、意味が分からない……。
「なんでぇー?ちっちゃいころは、一緒に猫ごっこしたじゃーん・・・」
「それ、いつの話だよ……」
呆れたように言うと、跳はぷーっと膨れた。
「……毎度聞いてるけど、なんで?」
理由を聞くと、跳は口角を上げながら、いつもと同じことを言った。
「だってあゆ、猫ちゃんだもーん!」
「いや・・・確かに【猫】だけど……」
「ちがーうのぉー。あゆはねぇ、白猫ちゃんなのっ!ほんっと、首輪つけたい!で、鈴もつけたいなぁ。でね、『鈴の音鳴らしたらおしおきだよ?』っつって、からだ舐め回して……。で、震えてチャリンって鈴の音が鳴っちゃったら、首輪引っ張ってオレのをあゆの口にぶっこん、」
「ご、ごめん・・・よく分かんないし、あんまり聞かないほうがいいような気がする……」
へらへら笑いながら良く分からないことを口にする跳。 ……でも、意味を知ったら絶対どん引きしそうな気がする……。 お兄ちゃん、よく跳のこと変態って怒ってるし……。
ということで、跳の口を手のひらで覆う。
「むーみゃっ、」
と、跳が何かを口にした。 その後、手のひらに生暖かい感触。
「ひゃあっ!?」
……このやろう・・・。 手のひら、舐めやがった!
「んま、それはおいおい達成するとして……」
「いや・・・たぶん、わたしが『にゃあ』って言うこともないし、首輪なんてありえないと思うよ?」
「…………っ!!」
「え?・・・なに?」
反論の言葉を述べた瞬間、跳がはっと驚きの表情でわたしを見た。 ……え?どうしたの、この人?
「にゃあって、言ったぁー!」
「へ・・・え!?」
え? …………あっ!もしかして、「『にゃあ』なんて言わないよ」の『にゃあ』!? なにそれ!?
「んー。今日はコレで満足かも♪」
「わあああっ!?」
跳は、ガシガシとわたしの頭を撫でると、満足そうに頷いた。 ……ま、いっか。
「んじゃあ、あゆ?これ・・・」
と、跳が1枚のメモを差し出してくる。 そこには、跳の手書きの文字が書かれていた。
「あゆには知識が必要って言ったでしょお?……せめて、これくらいのことは学んどかなきゃ」
にっこり笑った跳。 ……ああ。コレを調べろってことね?
「ん。……分かった。ありがと」
笑って返事をすると、跳は笑顔で「どーいたしまして」と返事をしてくれた。
「んじゃあ、あゆ?おやすみー」
ゆるーく手を振った跳に、わたしも手を振り返す。
「うん。……跳、ごめんね?わがままばっかり言って。ありがとう!」
それを聞いた跳は、ちょっときょとんとしてから、破顔した。
「んーん。オレも、おせっかいいっぱい言ってごめんねぇー?」
「ううん。嬉しかったよ!」
心配してくれるのは、嬉しいよ。
「じゃあねぇ!」
「おやすみ!跳!!」
ぶんぶん手を振って、跳をお見送りする。 ……ごめんね。
跳の姿がなくなるまで見送った後、自室の鍵を開けて、部屋の中に入った。 そして、共同スペースのソファに座って、颯斗を待つ。
「……この間に、調べちゃおっかな」
わたしは、デスクトップのパソコンと、小さいノートパソコンを2台持ってきている。 一旦部屋に入ってノートパソコンを取ると、再度ソファに座ってパソコンを起動させた。
「んーと、調べ物・・・。まずは……セックス?これくらいなら、分かるけどなぁ。子ども生む前にする運動でしょ?」
わたしは独り言を呟いて、カタカタとパソコンをいじった。
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