Side Haneru
あゆの手を引っ張って、外に出る。
たぶん、ユウさんは颯斗くんにあゆの性格とかを話して、注意して見ていてほしいんだろうな……。 オレの役目って言いたいところだけど、やっぱり近くで見てられるのは同室のやつだから……。
……すげーはがゆいよー…。
ちなみに、オレの部屋は427号室。 あゆの部屋は、407号室らしい。 ……遠いっ!!
「……跳?」
「あり・・・?」
思考がぶっとんで、落ち込んでいたオレの顔を、あゆが覗き込む。 ううう……。
「あゆー……気をつけてね?」
手に力をこめて、あゆの手をぎゅっと握る。 ……あ。オレら、手つないでんのね。 ここは幼馴染特権っつーか、これくらいのスキンシップならあゆは怒んない。
……つーか、ユウさんがそれ系のことをシャットダウンして生活させていたせいで、あゆはそういう部分の免疫が薄い。 だから、「キスは好きあってる男女がするもの」とは分かっていても、「おいしそうだから食べた」なんていう馬鹿みたいな言い訳にも素直に頷いてしまう。 耳を舐められて変な声が出た理由も、分かってない。
……ちょっと、ユウさんが異常なんだよな。あゆのこと言えないと思うー。 あゆに対する執着・・・というか、庇護欲が。 まあ、あゆとユウさんは血が繋がってないしね。……あ、これまだ言っちゃダメだった?
「はーねーるー?」
「あーい」
おっと。 また考えすぎちゃってたみたいだね。 オレは、あゆに、にへらって笑って見せた。
「あの・・・跳も、わたしはこの仕事、向いてないと思う?」
おっと。 ……さっきのユウさんの言葉が、尾を引いてるみたいだね……。 オレは、あゆに笑いかけてみた。
「うん」
で、うそはつけないから、頷いてしまう。 すると、あゆがきゅっと俯いた。
「そっか・・・」
「あゆはいい子だからねー」
「……“いい子”って、褒め言葉じゃないよね?」
「んー?褒め言葉だよ?……でも、お仕事の上でいうなら、まったく褒めてない」
「……ん、」
今さら、あゆ相手に言葉は選ばない。 それに、あゆが諦めてくれるなら、それが一番いいもん。 ……ま、無理だろうけどねえ。
「それでも……わたしは、がんばりたい」
「うん。そー言うと思ったから、オレはここに来たの」
そう言うと、あゆは困ったように笑った。
……あ、 あのね、勘違いしちゃダメだよお? あゆは、決して能力が低いわけじゃないからね? むしろ、単純に瞬発力とかスピードとかっていう身のこなしなら、歴代の【猫】の中でも5本指には入ると思うよお?頭もかなりいいし。……ちょっと、知識は偏ってるけどね。 すでにヒデさんとかシズカさんより、総合的な身体能力は高いし。 今あゆに勝てるのって、ユウさんくらいだと思うよ。 もちろん、オレよりも足は速いしね。
筋肉は、別だけどね。 男と女だと、どんなに鍛えても差ってでてきちゃうし……。 運動やってる人なら、分かるんじゃないかなあ? 同じくらいのトレーニングをしてもね、男と女だと、筋力って倍近く変わってきちゃうから。
……話が、それたねえ。
えっとねえ、【獅子】があゆを女だって理解した後も、任務を取り下げなかったのは、あゆの能力がかなり高いから。 たぶん、あゆの性格とか知らないやつからしたら、男装してでもあゆが任地に行くのがベストって思うと思うよ。
だから、あゆがこの任務をやる気になってるのは、当然のことっちゃ当然のことだし、むしろ辞退するほうがまずいっつーの。
だから、オレとかユウさんの心配って、ただのエゴなのね。 つまり何を言いたいかって言うと……。
「……頑張ってね?」
「う、うん!!」
ここに来て、はじめて応援の言葉を発した。 そしたらあゆは、一瞬呆気に取られてからこくんと頷いて、それから目に涙を浮かべた。
……分かってたんだよ。 あゆが、「頑張って」って言って欲しかったことは。 でも、頑張ってほしくなかったんだ。 頑張りすぎてほしく、なかった。
オレとユウさんはさ、あゆ。 【六獣星】として、間違えてるのは分かってるんだけど……。 あゆがたくさん辛い目に合って成功した任務はいらないんだ。 あゆが安全で幸せでいられる日常のほうが、ずっと大事なんだよ。
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