愛☆猫 | ナノ


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Side Hayato



「と、いうわけで…」


謎の踊りを暴露されて、顔を真っ赤にする歩。
歩を引っ張りながら、「バストアップダンス踊ってー」とせっつく犬飼。
そして、オレ。


3人を前に、優哉さんがほうっとため息をついた。


「本当は歩をここに泊めて行きたいくらいだけど、さすがにまずいからな。そろそろ、お開きにしようか」


辺りはすっかり暗くなっていて、時計の針は20時を指していた。
その言葉に、歩もこくんとうなずく。


「……っつーことで、跳。お前、歩送ってけ」

「ふあーい」

「「え!?」」


気の抜けた返事をする犬飼と、驚きの声を上げるオレと歩。
え?オレじゃ不満ですか!?


「……飯島に、ちょっと話があるんだ」


訝しげな視線を投げていると、優哉さんが真っ直ぐオレを見て言った。
……え?オレ?


「……お、お兄ちゃ・・・」

「あーゆー?行こう?」


不思議そうな顔で優哉さんに声をかけた歩の腕を、犬飼が引っ張る。
オレは……


「分かりました」

「ん。……じゃ、歩。ゆっくり休めよ?なんかあったら、すぐ俺のところに来いな?」

「う、うん。・・・でも、颯斗は……」

「あー、歩。すぐ戻るから、先行ってて?」


歩を先に帰してまで話したい話。
たぶん、重要なんだと思う。


オレは、優哉さんの話を聞いておくことにした。


歩は、オレと優哉さんの顔を見比べてから、こくんと頷いた。


「分かった。……じゃ、お兄ちゃん・・・。おやすみなさい」


呟いた歩は、とことこと優哉さんの傍まで歩いていく。
そんな歩の頭に、優哉さんは手を置いて、髪にちゅっと口付けた。
そして、ぎゅっと抱きしめる。


……はあっ!?外国かよ!!


「……これ、優哉さんがあゆにすり込んだ、兄妹間のおやすみの挨拶だよお。あゆ、世界中の兄妹が寝る前にこれやってると思ってるかんねえ……」


もうツッコミを入れる気もないという調子の犬飼が、ぼそっと呟く。
……すごい兄妹だな・・・。


「じゃあ・・・じゃあ、おやすみ、お兄ちゃん!……颯斗、また後でね?」

「ああ」


笑いかけて返事をすると、歩はにこりと笑って、犬飼と連れ立って保健室を出て行った。





「……んで、」

「は、はい・・・」


ニコニコしながら歩が去っていくドアを見ていた優哉さんは、2人の足音が消えた瞬間に笑顔をやめ、低い声で呟いた。
とたんにピリッとした空気に、思わず背筋が伸びる。


「お前は、歩のトップシークレットを知った。歩が信じると決めたんだ。俺も、信じてやる」

「あ、ありがとうございます・・・?」


ありがたいのか何なのか……。
とりあえずお礼を言うと、優哉さんははあっとため息をついた。


「携帯からばれるとはな……。人付き合いも、意外と重要ってわけか」

「・・・へ?」

「いや。こっちの話だ。……俺や跳は、歩を守るためにここに来た」

「あ、・・・はい。でも、犬飼が来れるなら、歩が来る必要はなかったんじゃ……」

「それはまあ・・・指令だから、仕方ねえんだよ。それに跳は、実働向きではねえし。……ま、そんなことはどうでもいい。とにかく、なんで俺や跳が、アイツをここまで心配してるか分かるか?」

「え…?女だから、ですか?」

「それもある。女で、しかも可愛いからな。でも……それ以上に心配なのが、歩の性格ゆえ、だ」

「性格……?」


そういえば、さっきも言っていた。
性格が、この仕事に向いてないって。


「歩は、優しすぎる。対象に触れたら、誰でも助けたくなるし、放っておけない」

「……いい、性格じゃないですか」


その性格が、まるで歪んだ性格みたいな言い方をする優哉さん。
あまりの言い分に、ちょっとカチンと来る。


「……あ、ああ。いい子だし、俺だって可愛い性格だと思ってる。……だけど、その性格になった理由というか……人の心への執着が、半端じゃねえんだよ」


人の心への執着・・・?


「ま、それは後で話すとして……。とにかく歩は、『人を助けたい』『人の役に立ちたい』『家族として、責務を全うしたい』っていう意思が強すぎる。んで、それに反比例して、自分の命や存在を軽く見ている節がある」

「……どういう、?」


意味が、よく……。


「んーとな、例えば……。俺と歩が崖に行ったとして、歩が足を滑らせたとする」

「はあ?」


急に飛んだ話に、ついていけない。
優哉さんは、『まあ聞け』と行って、話を続けた。


「で、落ちかけた歩の手を俺がギリギリで掴んだとして……。俺と歩の両方が危うい状況になったとする」

「は、はい・・・」

「そうしたら……歩は、たぶん迷わず手を離す」

「……はい?」


あまりの展開に、頭がついていかない。
よく分からなくて聞き返すと、優哉さんが困ったように笑った。


「だから、俺と歩が2人して危ない状況になったとき、どちらかが犠牲になって助かるなら、歩は迷うこともなく自分が犠牲になるってことだ。……1回、あったんだよ。跳が交通事故にあいそうになったとき、歩は跳を突き飛ばして、自分がひかれたんだ」


そのときのことを思い出しているのか、優哉さんがギリッと歯を噛む。


「俺の目の前で、だ。俺と繋いでいた手を振り払って、迷わず車へ走って行った。あいつの背中には、そのときの大きな傷がある。……そういうやつなんだよ。自分の命より、人の命を守ることを第一に考える。
聞こえは良いけど……守られたほうは、たまったもんじゃねえよな?」

「……なんで・・・?」


確かに……。
『自分の命より、人の命を護りたいなんてすごい』っていうのは、それがドラマの中だったらの話。
実際は、『自分の命を軽視しているやつ』だ。


「人を助けたい、嫌われたくない、役に立ちたい。誰かがケガをするくらいなら、自分がケガを負う。自分が犠牲になれば、人が助かるなら、迷わず自分が犠牲になる。
……最悪なんだよ。アイツを大事に思ってる、俺たちにとっては。……だから、俺たちは歩を守るために来たんだ。1人で行かせたら、任務をまっとうするために、どんなことをするか分からない。学園で仲良くなった人が困っていたら、何をするか分からない。……だから、飯島。俺たちも、極力歩を見ているようにはする。でも、一番歩の傍にいられるのは、お前だろ?……気にしてやって、ほしいんだ」


そう言った優哉さんは、ぺこっと頭を下げた。
そんな優哉さんに、俺はこくんと頷く。


「もちろん、です。分かりました」


力強く返すと、優哉さんはにこっと笑った。
すげえかっこいい笑みに、思わず見とれてしまう。


「で、歩がそんなんなっちまった理由だったな。……まあ、これは仮説でしかねえんだけど……」


そして優哉さんは、そう前置きをした後、歩のことを、かいつまんで話してくれた。






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