愛☆猫 | ナノ


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Side Hayato



目の前には、ちょっと異様な光景が広がっていた。


ふんわりと、ゆるいパーマをかけた、白衣の美形が椅子に座っていて。
その足の間に、歩がちょこんと座っている。
で、歩の腹部には、白衣の美形の腕が巻きついている。


それで、ベッドの上に我がもの顔で座るのは、真っ赤な髪のこれまた美形。
へらっとしているけど、さっきからたまにピリピリするような威圧感を感じる。


なんだ、この人ら?





「あの……」


すっかり蚊帳の外に置かれてしまったことに疎外感を感じながら、目の前でなにやら不思議なやり取りをしていた美形兄妹に声をかける。
すると、歩が目をきょろっと動かしながら、まっすぐオレを見た。


「はい」

「あの・・・さ、なんか、変装とかしたら?」

「・・・え?」


さっきから、思ってたんだ。
歩が目立つのは、間違いなくその顔のせい。
調査をしたくて目立ちたくないなら、カツラでもなんでもかぶって、青い目もカラーコンタクトかなんかで覆って、メガネでもかけちゃえばいいのに。


そう提案すると、優哉さんがふるりと首を振った。


「王道の変装か・・・」

「はい?」

「いや。こっちの話だ」


そう言った優哉さんは、にこりと笑った。
……どうでもいいけど、この人妹への喋り方とオレへの喋り方が全然違うな。


「変装は、させない」

「なんでっスか?」


あまりにもばっさり切られたんで、訝しげに問い返す。


「逆に目立つからだ」

「どういうことですか・・・?」


歩は、栗色の髪に青い目というすごく目立つ容姿をしているし、このままが一番目立つだろう。
だったら、それを隠せばいいと思うのは、当然のはずなのに……。


「……あのなあ、学生は運動もすりゃあ、修学旅行もあるんだよ」

「ま、まあ、そうですけど……」

「風が強い日もあれば、急に雨が降ってくる日もある。日常生活を送るにあたって、こんなカツラ、絶対すぐに落ちるんだよ」


そう言って優哉さんが所在なさげに取り出したのは、真っ黒のもふもふとしたカツラだった。


「も・・・持ってんじゃないっスか!!」

「え?お兄ちゃん、そんないいもの持ってたの!?」

「おー。ちなみに、こんなのもあるぞ」


続いて優哉さんが取り出したのは、黒縁のメガネと、(おそらく)黒色のカラーコンタクトレンズだった。
って、えぇぇええ!?


「な、なんで持ってたのに、出さないんすか!?」

「出発前に渡してくれればよかったのにっ!」


同時に声を上げるオレと歩。
優哉さんの足の間から飛び上がろうとした歩の体に、優哉さんは腕を巻きつける。


「うぇっ、」

「ユウさん、そろそろあゆ離そうかー?」


あまりに強く抱きつかれて、思わずえずいた歩に、犬飼が近づく。
そして、2人をべりっと引き剥がした。


「あゆー、こっちおいでー?」

「歩はオレのだ」

「あんたのじゃないよねえ?……オレ、マジ2ヶ月以上ぶりに会うんすよー。だから…ね?」


にへらっと笑って、犬飼が歩を手招きすると、歩はちょっと悩んだ後、するすると犬飼のほうに寄っていった。
待ってましたとばかりに犬飼が歩を抱きしめる。


……いいな、幼馴染。
まあ、こういう状況なのに全然恋愛っぽさを感じないのは、ちょっとざまあ見ろ、だけど。


「……で、なんで変装しちゃいけないの?」


歩が、犬飼の腕の中で優哉さんに問いかけた。
そうだった。なんでだ……?


「さっきも言ったけど、こんなカツラを被ってメガネをかけて、まともな学園生活なんて送れるわけないからだよ。もって数ヶ月。間違いなく、バレる。……バレたときに待っているのは、その理由の“追求”だ。変な目立ち方をして追及されれば、女だってことまでバレかねないからな。だったら、素顔のまま“可愛い系の男子”を装っていたほうが、目立たないだろ?」


確かに……理論上は、正しいかもしれない。
でも……それでも納得できないことはある。


「でも、黒もさのやつだったら、はなから生徒会に興味をもたれないんじゃないですか?」


興味をもたれなければ追求されることもないし……。
そう問うと、優哉さんは口角を上げた。


「歩は、普通の学生と違う。“編入生”なんだよ。韮崎学園でも珍しい、な。だから、生徒会に目を付けられるのは当然なんだ。学園に染まっていない、真っ白な“編入生”なんだから」

「そ、そうですけど……」


確かに……。
編入生ってだけで、生徒会と接触する確立が、ほかの生徒とは段違いだ。
事実、歩の学園案内に来たのは、庶務の相原だったという話しだし……。


でも。
それでも、オレは変装していたほうがよかった気がする。
だって、歩の容姿が特出してなければ、生徒会連中があんなにも興味をもつこともなかっただろうし……。
それに、絶対学園の男どもに狙われると思う。


それを伝えると、優哉さんはにやりと笑った。


「お前、見込みあるな」

「……どーも、」


なんの見込みかはさっぱり分からないけど、とりあえず返事をしておく。
優哉さんは、口角を上げつつも口を開いた。


「興味のもたれ方がどうであれ、生徒会と歩が接触したら、親衛隊が動くんじゃないのか?」

「……あっ!」


言われて、気がついた。
確かに……そうだった。
生徒会連中には、全員に親衛隊が存在する。
そんな生徒会に、黒もさのやつが接触したら……考えるのも恐ろしいくらいの制裁が行われるだろう。
……それに、すげえ不本意だけど……


「お前にも、親衛隊があるんだったな?」

「そ、そうですね・・・」

「だから、お前と同じ部屋の時点で、変装なんか逆効果でしかないんだよ。同室っつうだけで、キレて制裁をはじめるヤツはいるんだろ?」

「たぶん・・・います、ね」


そう、だった。
なんでオレ忘れてたんだろう……。
もともと、オレが1人部屋の理由って、前に同室だったヤツがオレの親衛隊の制裁で辞めたからだった。
……あんときは、アイツにすげえ責められたな……。
必死に親衛隊を止めようとしたんだけど……きちんと、できなかったんだ。
今でも……後悔してる。


「お前の親衛隊にしろ、生徒会の親衛隊にしろ、黒もさのやつが接触しているのを見たら、過剰な制裁に入る。歩は鍛えているから強いけど、数人のごつい男に組しかれてみろ。服を引き剥がされたら、その瞬間にエンド、だ」


そうか。
だったら、素顔を晒して、不本意だけど歩に親衛隊でもなんでもできたほうが、歩の安全は保障できるってわけか。


「えっと・・・ごめん。わたし、まだ良く分からないんだけど……」


と、歩が犬飼の腕の中で呟いた。


「あの、じゃあなんで、お兄ちゃんはそんなの持ってるの?」


あ、そうだった。
確かに、変装させる気がないなら、なんでそんなの持ってるんだ……?


「ああ、これか?これは、歩が調査するときに……」

「ちょっ!きゃ、あっ!?」


優哉さんが理由を説明しようとした瞬間、歩がおかしな声を上げる。
何かと思って犬飼と歩のほうを見ると……


「あゆの小さい胸、落ち着く……。あゆってば、12歳くらいから、胸が全く成長してないよねぇ・・・」

「やっ・・・は、ねるっ!?」

「てめえ!このど変態っ!!」


べりっ。


優哉さんが、歩の胸をぺたぺた触る犬飼を、歩から引き剥がした。
そのまま、目に怒りを宿して、犬飼に指を突きつける。


「アホかてめえは!この貧相な胸こそ歩のステータスじゃねえか!お前、歩が胸の小ささに悩んで、毎日“胸の大きくなるダンス”を踊ってんの見たことねえだろ!?なぜか『人間っていいな』を歌いながら腕バタバタさせて、めちゃくちゃかわい、」

「なななな、なんで知ってんのーっ!?」


優哉さんの声を遮って、歩が叫んだ。





……その踊り、ちょっと見てみたい、かも。






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