愛☆猫 | ナノ


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Side Shizuku



隣にいる昴……すーちゃんが、おもしろそうに口角を上げていた。
普段、どこか偽者っぽい笑い方をしてばかりのすーちゃんが、本気で笑っているのを見て、少しの驚愕と共に、戦慄する。


笑っているとは言っても、すーちゃんの笑い方は、そこらの高校生が友人とけたけた笑っているようなものではない。
純粋な興味と、残酷な笑い方。


心は真っ黒だから、たぶん転入生を使って、どう遊ぶかしか考えていないんだろう。


「おい、歩はオレが最初に見つけたんだからな!」


去っていく歩の背を見つめていた瀬奈が、視線をすーちゃんに向けた。
すーちゃんは、目を細めて瀬奈を見る。


「別に、出会った順番なんて関係ないだろう?あの子は、俺が壊すって決めたんだから」

「うわ、最悪……」


すーちゃんを睨みつけながら、瀬奈がうなる。
……あ、すーちゃんの壊すって、言葉通りの意味じゃないよ?
腕の中に閉じ込めて、遊んで、突き放して……ボロボロになりながらすがり付いてくるのを見たいだけ。
とんだ悪趣味だよね?


「雫も……」


瀬奈が、今度はのん気に実況をしていた僕を見た。


「僕が、なあにい?」

「お前と歩のいちゃこらなんて、女同士にしか見えねえから、やめろよ?」

「えー?ぼくが彼に対して、ネコでいるとでも思ってんの?」

「思ってねえから言ってんだよ……」


そう言って、ふんっと顔を背けてしまった瀬奈。
……そんなんだから、生徒会で一番ガキって言われてるんだよ。





と、そのとき、黄土色の悲鳴が食堂に響き渡った。


先ほど、僕たちが食堂に入ってきたときより、数段大きな声。
ということは、入ってきた人物は、彼らしかいない。





「あれ、珍しいな。嵐が食堂に来るなんて」


隣にいたすーちゃんが、ちょっと驚いたように声を上げる。
……確かに。
『うるせえから苛つく……』といって、あっくんは滅多に食堂にはこないのだ。


「どうしたの?珍しいね。真澄も一緒なんだ?」


すーちゃんは、理事長の息子で、生徒会会長の韮崎 嵐(にらさき あらし)に声をかけた。グレイの髪に、僕的にはちょっと鋭すぎると思うけど、ファンの間じゃ『冷たくてクールな視線』ともてはやされる、真っ黒い瞳をもった、いささか整いすぎた顔。韮崎学園の絶対権力だ。切れると手がつけられないから、機嫌が悪いときは、幼馴染の僕らも声をかけない。
隣には、書記であり、生徒会一まじめな柏 真澄(かしわ ますみ)がいる。茶道柏流の家元の長男で、幼い頃から礼儀を学んできたため、しぐさもなんだか武士っぽい。今日は……機嫌が悪いのだろうか。眉を寄せて、少々むすっとしている。


「どうしたの、じゃねえ。何してんだ」


あっくんはそう言いながら、すーちゃんを睨んだ。
わあ……。機嫌わるーい。やだー、声かけたくなーい。


「え?……ああ、提出書類なら、机の上に置いておいたけど?」


対するすーちゃんは、転入生との遭遇で、かなり機嫌がいい。
あっくんの機嫌の悪さなんてへでもないというように、にこにこと対応する。


「あぁ?てめえ、ちゃんと読んでねえだろ。あの書類、予算がめちゃくちゃだった。……なんで判子を押した?」

「最終決定権は嵐にあるんだから、いいじゃない」


ふふっと笑うすーちゃんに、あっくんはいぶかしげな視線を送る。
……うん。確かに、機嫌がよすぎて気持ち悪い。いつもより数段黒い。変なオーラが出てる。


「なんかあったのか?」


そんなすーちゃんを放って、あっくんが僕を見た。
僕は、にへらっとあっくんに笑いかけてみる。


「転入生と絡んだからじゃない?」

「……転入生?」


僕の言葉にぴくんと反応したのは、あっくんではなく、隣にいたますみんだった。
こんなに不機嫌そうなますみんは珍しい。驚いて見ていると、ますみんはイライラしたように話し始めた。


「あの、チャラチャラした野郎か……?」

「「「チャラチャラ?」」」


ますみんの言葉に、僕とすーちゃん、瀬奈が、声を上げる。
チャラチャラ?……三宅 歩が?


「ねえ、あの子チャラチャラしてたあ?」


声をかけると、すーちゃんはあごに手を当てて、考えるようなそぶりを見せた。


「馬鹿みたいに素直そうな子だったけどね」


先ほどのことを思い出したのか、すーちゃんがクスリと笑う。
……だから、黒いって!悪趣味だってばあっ!


「素直?アイツが?……だらしなく制服を着て、初対面なのにまったくの非友好的態度。挙句『地図覚えてるから、案内はいらなーい』なんて言いやがった」

「……い、いやいや!歩は、猛ダッシュでオレの前を走っていったけど、声をかけたらニコニコしてたぞ!」


瀬奈が、慌てて口を挟んだ。するとますみんが、一層怪訝そうに僕たちを見る。


「あの野郎がか?赤い髪に、グレーのカラーコンタクトを入れた……」

「歩は、栗色の髪に、青い綺麗な目だ!」


どうにもこうにもおかしい。
そう思って、チラリとあっくんに目をやると、あっくんは口角を少し上げた。


「ああ。言ってなかったか?転入生は、2人いるんだ」

「「「「2人!?」」」」


4人の声が、見事にハモる。
誰も聞いてなかったんだけどおっ!?


「言ってなかったか?2人共2年。しかも、2人とも編入試験満点だ」

「何それえ?」


え、っていうか、あの子編入試験満点だったの?
僕でもそんな点取れる自信ないよ?


「瀬奈に行かせたのが三宅 歩、真澄に行かせたのが犬飼 跳(いぬかい はねる)だ。……そんなことより、昴」

「なんだい?」


まだ驚きから抜け出せていないすーちゃんに、あっくんが声をかけた。


「お前の機嫌がよくなっているのは、三宅が原因か?」

「……え?俺、機嫌なんかよくないよ?」


すーちゃんは、首をかしげて、クスリと笑った。
あまりにも妖艶な笑みに、僕もちょっとだけドキッとしてしまう。


……っていうか、すーちゃん。今さらそれはないと思うよ?
いくら、あっくんに興味を持ってほしくないからって。


「いい暇つぶしになるかもな」


やだー。
あっくんまで、そんなこと言って……。


でもまあ、あっくんはすーちゃん以上に人に興味を持たない。こんなことを言っているのも、単純にすーちゃんとか瀬奈の反応を楽しむためだろう。
……え、僕?僕はそんなに……。まあ、機会があれば、かなあ?


「……嵐。あの子は俺がおもちゃにするって決めたんだから。嵐は、俺が飽きたらにしなよ」

「さいっあくだな、昴……」


瀬奈が呆れたような目を向ける。
あっくんはその言葉を聞いて、クスリと笑った。


……ちょっとギャラリー、うるさいよ。
キャーなんて言って可愛いのは、僕くらいなんだから、やめてよね。


「いらねえよ、てめえのお下がりなんて」


あっくんは言い放つと、「行くぞ」と僕たちを促した。





うるっさいギャラリーの中を通って、僕たちは食堂を後にした。






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