Side Subaru
瀬奈が可愛いといっていた編入生は、確かにキレイな顔をしていた。いや……正直、ここまで端正な容姿をしている子は、そういないと思う。
その子は、俺たちが近づいても、頬を染めたりすることはなかった。 ……それより、なんか黒いオーラ出てない?
なのに、急にぶりぶりと話し始めるから、呆気に取られた。 言葉遣いだけ見れば、その辺によくいるようなバカなやつらのそれと同じ。 ……でも。
顔が、ね。 俺のこと睨みつけてるの。 睨んでる……というか、冷めた目でまっすぐ見つめてくる。 それなのに、口は「生徒会のみなさんとお会いできて光栄です〜」なんて吐く。
なんていう、アンバランスさ。
挙句、なんだかんだと理由を付けて、俺たちの誘いを断った。
このぶりっ子口調に似合わない、鋭い目。 そして、結局俺たちから離れようとしているという事実。
瀬奈じゃないけど、興味をそそられる。 だって、意味が分からないから。
「君、さ……」
久々に、素で笑ったなーなんて思いながら、目の前の少年……三宅 歩に声をかける。 三宅くんは、訝しげな目で俺を見ていた。
……だから、ね。そういう目は、おかしいんだってば。
「君、言葉と表情が合ってないよ?」
「へ?」
ぽかんと口を開けて、三宅くんが俺を見る。 俺が三宅くんの手をつかんでいるからだろうか……。 ざわざわと煩い雑音。 でも、今日はそれほど気にならない。
「どう、いう……」
三宅くんは、驚愕の目で俺を見ていた。 ほら、もう仮面がはがれてる。
「ああいう言葉遣いでしゃべるときはね?……雫、」
「えー?雫、そんなの分かんなあいっ☆」
雫が、両手を頬に当てて、ちょっと上目遣いになりながら言い切った。 そして、『分かんなあい☆』とともに、ギャラリーに向かってばちこーんとウインク。 ギャラリーが、雄たけびをあげるのが分かる。……やりすぎだ。
「……ね?これくらいしなくちゃ。君、俺のこと睨んでるんだもん」
くすくす笑うと、三宅くんがかすかに唇を噛んだ。 ……やっぱり。何か隠してるね。
「なんで、わざわざそんな話し方するのかな?」
三宅くんの耳元でぼそりと呟くと、彼の体が少し震えた。 ……あれ?
「感度、いいんだね?」
「は?……っ、ちょ!」
クスリと笑って、じっとりと歩の耳を舐め上げた。
「ひゃ、・・・ん……!?」
甲高い声で啼いた三宅くんは、自分の声に驚いたのか、ばっと口を閉じた。 ……からかいがいが、あるね。
「わー、可愛い声で啼くねえ?僕、ちょっと啼かせてみたいかも」
実はタチ(つまり男役)もネコ(女役)もイけるが、その姿からネコになることが多い雫が、目を細めた。 瀬奈は、「手え出すなよ!」とかなんとか言いながら、むくれている。
「……、ちょっと…」
と、飯田くんが、俺の手を押さえつけた。 歩が、すがるような目で飯田くんを見ている。
「……あの、こいつ今日がはじめてなんです。だから、静かにさせてやりたい」
「そ、そそ、そうです…!……あの、離してやってください」
飯田くん、次いで寺岡くんが口を挟む。 ……ああ、彼らの名前は覚えているよ?一般生徒には珍しく、親衛隊付きだからね。
「ふふ。編入初日で、ここまで手なずけているなんてね……」
舌を出して、三宅くんの耳裏を舐め取った。
「ふ…ぅ、ん」
口を押さえて、三宅くんがか細い声を上げた。 この声。……苛めたくなってくる。
「ね、君はどうして演技なんかしたの?」
噛み付くように、三宅くんの耳に唇を寄せる。 三宅くんは、ふるふると震えていた。
「……ま、いっか。ねえ、俺君のこと気に入っちゃった。今日、俺の部屋に来ない?」
「い、かないっ……!」
「えー?……そんなこと言わないで?……歩」
耳元で名前を囁くと、歩がびくりと震えた。 反応がいちいち可愛らしい。
「ね?」
「……ご、ごめんなさいっ!」
もう一度いたずらしてやろうと思った瞬間だった。 急に、俺の腕の中で謝罪の言葉を口にした歩。
「え……?」
何事かと思って、歩を見た瞬間だった。 歩のひじが……俺に向かって鋭く突かれていた。
……みぞおちに、入る!
慌てて腕を緩め、それを避ける。 歩は少しだけ目を開くと、ばっと俺から離れて、構えた。
「……君…?」
「さわ、らないで・・・ください……」
か細い声で言いながら、俺を睨みつける。
「うおーっ!歩、かっけーっ!」
ばか瀬奈が、なぜだか賞賛の声を上げる。 隣で雫が、にやりと笑った。
「演技をしたのは、できれば嫌われたかったからです。……生徒会のみなさんに好かれると、制裁を受けると伺っていたので」
震える声で、淡々と言葉を連ねる歩。
「不快に思われたなら、申し訳ありません。……失礼します」
くるりときびすを返して、歩き出す歩。 飯田くん、寺岡くん、そして冴島くん(だったかな?2学年首位の)が、慌てて歩を追いかけた。
「かっけー!歩、マジかっこいいっ!」
興奮する瀬奈。
「ふうん。いいね、彼」
何を考えているのか、おもしろそうに笑う雫。 そして、腕の中で震えていた、歩の感触を思い出す俺。
久々に、おもしろい玩具がきたのかもしれないな。
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