愛☆猫 | ナノ


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Side Miyabi




どんなヤツかと思ったんだ。
編入試験満点、なんてさ。


翔太の頬を赤く染める原因となっている、栗色の髪の少年に目をやる。


そんなに長く生きているわけではない。
せいぜい16年くらい。
でも、こんなに綺麗な人を見たのは、はじめてだ。


生徒会のやつら……そう、たとえば生徒会会計の、市川 雫。
金髪に、緑色の瞳。……まあ、コンタクトだろうけど。
長い髪は綺麗に手入れされていて、美しい。
会長や副会長も端正な顔立ちをしているが、会計は、とにかく美人なのだ。


でも、そんな会計も、三宅くんの前では見劣りするかもしれない。
何ていうのだろう……。
顔のパーツだけでいったら、会計のほうが綺麗かもしれない。
でも、三宅くんは……なんというか、白い、んだ。


意味、分からなくなってしまったけど……。
歩は、なんとなく純粋……すぎる。
それでいて、たまにすごく儚げな表情をする。
白くて、透明で……消えて、しまいそうな。


……って、何を考えているんだろう、僕は。


首をふるりと振って、雑念を追い出す。
会ってたかだか2、30分の同級生に、こんなことを思うなんて。


そんなことより、重要なのは三宅くんが編入試験で満点をとったという事実。
ふと、両親の顔が思い浮かぶ。
……勉強時間、増やさなきゃ。








食堂に入ると、昼過ぎ、夕飯前という微妙な時間だからか、生徒はまばらだった。
僕はともかく、颯斗と翔太は学園でもかっこいいと有名だから、その少ない生徒もざわついたのが分かった。
……それに今日は、三宅くんもいる。


「え、誰……?」
「きれー…つか、可愛い系?」
「やべえ…ヤりてえんだけど……」


三宅くんへの賞賛の声に混じって聞こえる、下劣な声。
チラリと三宅くんに目をやると、聞こえていないのか、食堂に目を輝かせていた。


「わあ…おっきいっ……」


キラキラキラ……という効果音が聞こえてきそうなその言葉に、おもわず笑みが漏れる。
颯斗は、「オレはノーマル、歩は男……」なんてブツブツと繰り返していた。


「ねね、どうやって注文するの?」


ぱああっと、三宅くんが、僕に向かって振り向いた。
僕は、カードキーをケースから取り出す。


「この機械に通して、カードで注文するんだ」

「へえ…。すっごい」


口元を綻ばせて、三宅くんがカードを取り出して、機械に入れた。


「何にするの?」

「おすすめはねー、オムライス!」


機械を見ている三宅くんに、翔太が言った。
三宅くんはちょっと迷った後、オムライスのボタンを押す。


「ちょっとへんな時間だけど、オレたちも食うか?」

「うんうん、そーしよーっ!」

「そう、だね……」


大してお腹は空いていなかったけど、まあいいやとばかりに注文する。
いざとなったら、食いしん坊の翔が食べてくれるだろう。


「んでねえ、こっちっ」


すっかり三宅くんを気に入った翔太が、三宅くんの手を引っ張った。
そして、食堂のスタッフのお兄さんに、食券を差し出す。


「これでねえ、あとは席まで届けてくれるんだよおっ」

「すごーい」


ニコニコと笑う三宅くん。
まあ、この学園の常識は、ほかとは違うから……。


「んじゃあ、席までいこーっ!」


三宅くんの手を引っ張る翔太。
それに舌打ちしながらも、着いていく颯斗。
僕も、それに続いた。








ちょうど4つ空いていた席に座る。
しばらく待っていると、ウエイターが慣れた手つきでワゴンを押してきた。
そして、僕たちの前に次々と料理を並べる。


「おいしそう…。ありがとうございますっ!」

「……えっ!?」


ウエイターは、しばしの沈黙の後、びくりとからだを震わせた。……お礼なんて、言われると思っていなかったのだろう。
そして、ちょっと頬を染めて、たたっと駆け出してしまう。


「……ぼく、なんか悪いこと言った…?」


ウエイターの後姿を見ながら、三宅くんがぽつんと呟く。
心なしか、しゅんとしているようにも見える。


でも、その言葉を聞いていたのは、僕だけだったらしい。
颯斗と翔太は、目の前のご馳走に夢中だった。


「そん、」


そんなことないよ。大丈夫だよ。
声をかけようと思ったけれど、それは叶わなかった。


「「「きゃ―――っ!!!」」」


突如響き渡った黄土色の声。
入り口のほうから聞こえてくる。
……男なのに「きゃー」はないだろう……。


「えっ? な、なに!?」


突然の悲鳴に驚く三宅くん。
当然だ。僕だって、慣れたくはなかった。


「生徒会だよお…」


僕の代わりに、翔太が呟いた。


「せ、生徒会……?」


入り口のほうを見ながら、三宅くんはからだを強張らせた……ように、見えた。






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