「うわー、颯斗顔こわーいっ!」
「え、っ…!う、るさい!」
「緊張しすぎでやっばい顔になってんだね☆」
「うるさいっつの!」
先ほどから、緊張した面持ちの表情をする颯斗をからかうのは、隣室406号室の寺岡 翔太(てらおか しょうた)だ。颯斗の緊張の理由は言わずもがな、主人公、歩の編入である。
「でもでも、編入試験満点だったんだろお?ガリ勉だったら、おれ友達になれなそう……。あっ!でも、雅は別だよ!」
しゅん、としながら言い切った翔太は、言い終わってすぐ、隣にいた黒髪メガネの少年にすがりつくようにしながら言った。 雅と呼ばれた少年、冴島 雅(さえじま みやび)は、若干頬を緩めて翔を見ると、すぐまた読んでいた本に視線を落とした。彼は翔太の付き添いだ。
「でもでも、どういう子なんだろうねっ?」
「知らないよ」
同室が不良とかごつい男だったらどうしよう……。そんな心配をする颯斗に、翔太が声をかける。だが、颯斗はそんな翔太の言葉に、そっけなく返事をした。
「……颯斗、大丈夫?もーお。意外とビビりなんだからあ」
颯斗の顔を覗き込みながら、翔太はいたずらっぽく笑う。 颯斗は、それをちらりと見てから、イライラと立ち上がった。
「……あー、もう!雅!翔太連れて部屋戻れよ!」
「えぇー!?颯斗が一緒にいてっていったんじゃん!」
「だってお前うるせえんだもん!」
突き放すように颯斗が言うと、翔太はちょっと膨れた。そして、颯斗に向かって舌を出す。
「……じゃあ、帰っちゃおっかなあ」
「か、帰ればいいだろ」
「ね、雅。行こうか?」
意地悪くそう言って、雅の服の袖を引っ張ると、雅ははあっとため息を漏らした。
「颯斗は、少し落ち着いて。……翔太も、本当はかなり緊張してるでしょ。……座ってな」
「「……はーい…」」
2人は声をそろえて返事をし、渋々床に座った。 雅はやっと落ち着いた部屋に安堵しながら、再度本に視線を落とす。
所在なさげにきょろきょろとする翔太。 相変わらず、本を読み続ける雅。 そして、そわそわしている颯斗……。
と、この空気がいたたまれなくなったのか、颯斗が立ち上がった。
「ちょっと…トイレ行ってくる」
「あ、うん。おれもそろそろ行こうかなー」
呼応するように、翔太も立ち上がった。 2人で、部屋の外に出ようとする。
「だいたい、15時半には来るって約束だったのに……。もう、とっくにすぎてるっつの」
「きっと、迷ってるんだよお。この学園広いしさ…」
そんな会話をしながら、颯斗がドアノブに手をかけた瞬間だった。
ピンポーン ガチャ
二つの音がなったのは、ほぼ同時。 ピンポーンは歩がチャイムを鳴らした音で、ガチャ、が颯斗が扉を開けた音……。
「……え?」
「……っ、」
ドアを開けた颯斗は、思わず声を上げた。それに対峙する歩は、急にドアが開いたことに驚き、反射的に飛びのいて攻撃態勢を取る。
「あれ?…編入生の子?」
颯斗の後ろから、翔太がちょこんと顔を出す。 歩は、構えていた手を下ろした。
「えーっと…同室の、飯田颯斗くん…は、どなたですか……?」
さすがに、全校生徒の顔と名前を覚えているわけではない。 部屋にいた3人のうち、誰が同室者か分からず、きょとんとして尋ねる。
「あ……オレ、です……」
おずおずと颯斗が手を挙げると、歩は満面の笑みで微笑んだ。
「あた……っと。ぼく、三宅 歩です。これから、よろしくお願いします」
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