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▽ リョウカタオモイ

真選組で働き始めて早数年。いつからだったんだろう?気付いたらいつの間にか近藤さんのことが好きになっていた。屯所にも帰って来ず、フラフラと毎日のように女の人の尻を追い掛けるような人だけれど彼女に対する気持ちが本物だと知った時にはその人に恋してるのも忘れてどこか応援すらしている自分がいた。

ああ、そんな風に愛されるその人が羨ましい。そう言えば、お前マジで言ってんの?と蒼白い顔でトシにドン引かれたけれどこの際それは関係ない。彼女の話を幸せそうな顔で話してくれる近藤さんが私は好きだった。嬉しそうな、ニコニコした、人の良さが滲み出たようなあの穏やかな笑顔を見られるならそれでもいいって。そう、思ってた筈なのに。

…いつからだろう?近藤さんのあの笑顔が私に向かなくなったのは。



「…ナマエ?おい、ナマエ」
「えっ?あ、ごめん!なに?」
「腹減らねーか?ちょっとしたモンならあそこに売ってるみてーなんだが」
「あ、うんちょっとだけ減ってる」
「じゃ、なんか食うか。買ってくるわ何がいい?」
「あー…じゃあトシと同じものがいいな。ごめん、なんか思い付かなくて」
「ん、分かった。その辺のベンチにでも座って待ってろ」
「うんありがとう、お願いね」

ああ、それだけ言い残して売店へと向かうトシをぼんやりと見つめて。ああ、もしかして気を使わせちゃったかもしれない。昨日から迷惑かけっぱなしだなぁ…なんて、小さく溜め息を吐き出した。


結局近藤さんから貰ったチケットの片割れを半ばトシに押し付けるようにして訪れた大江戸ランド。今日この日の為にわざわざ早起きをしてまで作ったお弁当は既に二人のお腹の中にあって、それなりに広いランド内もなんだかんだ言いながらもぐるりと一周し終えたところ。

怖いと有名らしいジェットコースターにも乗ったし、定番のコーヒーカップもトシをゲロ酔いさせるくらい回したし…ああ、そういえば去年本気と書いてマジでヤバイ怖い!と巷でちょっとした話題になったあのお化け屋敷にも、恐怖からか幻覚が見える程に渋ったトシを無理矢理引きずってったっけ。

最後には涙を浮かべて私の背中にしがみついてきた怖がりな彼の顔を思い出して吹き出してみるけれど、やっぱり…どうしても私の頭の中を支配するのはぎこちない顔の近藤さんだった。

…きっと彼のことだ。今頃トシの変わりにあの山積みの書類を一人片付けているに違いない。そう思うとどうしても漏れてしまう何度目になるか分からない溜め息にそっと目を伏せた。



「…ストーカーかよ、俺」

まァ、それは今に始まったことではないのだけど。ガサリ、それほど大きくはない垣根を分け入って誰にするでもない言い訳をしながら、こうして様子を伺うこと数十時間。俺のこの典型的なストーカー行為は実は早朝から続いている。


まだ日も昇らない午前4時、台所で今日の為だろう豪華な弁当を作るナマエさんを偶然見掛けたところから今日俺の朝は始まった。

…べ、別にチケットを渡してからいろいろ気になりすぎて夜眠れなかった訳じゃないから。眠れなさすぎてエロ本片手にトイレに籠ったら長いことそうしてたせいか腹を冷やして水腹になりおまけに脱水になりかけて、ようやく落ち着いた腹を抱えつつふらふら水を求めて厨房に行ったら何だか元気のないナマエさんの後ろ姿を見掛けたとか、そういうんじゃないから。

…ただ、気になったんだ。いつだって笑顔のナマエさんが今にも泣いてしまいそうなほど悲しそうな顔をしてるのはどうしてなんだろう?って。

そう思ったが最後、目当ての水も飲まずに部屋に戻ったもののギンギンに冴えた目はなかなか閉じず。結局朝まで寝付けずにこうしてトシと彼女が出掛けた後を未練がましく着いてきたとそういうわけなのだが。

両手には先程隠れていた木の上で採取した枝が2本。身を隠すに当たってベタにこれを持って垣根に潜んでいるけれど、あったところで大して意味はないことを知る。なんてったって後ろはガラ空きだ。さっきなんて背後を通った親子連れに「お母さん見て!あんなところに隠れゴリラがいるよ!キャストのお姉ちゃんに言ったら何か貰えるかなあ」「あれは違うの!見ちゃいけません!」なんてやり取りをされたばかりである。

幸い、その時はトシ達と随分距離があったからバレなかったけれど、今同じようなやり取りをされた場合は非情に不味いと言える。何故かというと、すぐ目の前のベンチに項垂れるように座るナマエさんがいるからだ。

まさかこんなに近く座るとは…思ってもない展開に目茶苦茶ドキドキしている。バレたらどうしよう、とかそういう意味でドキドキしているのであって決して変な意味でドキドキしているわけではない。ムラムラしているわけではない。

ハァハァと荒くなりがちな呼吸を抑えながら彼女の様子を伺う。目を伏せてどこか儚げな雰囲気を醸し出しているナマエさんはやはり、元気がない。今すぐここから出ていってどうしたのか問いたい気持ちはあれど、昔のように堂々と好きな人の前に出て行くことが出来なくなってしまった意気地なしの自分に腹が立つ。

深く彼女が吐き出したものとまるで重なるように自分からも漏れた溜め息は誰に気付かれるでもなく空気に融ける。

今日1日を振り返ってみて改めて思う。二人の間に俺の入り込む余地なんて微塵もなかったこと。

あっちこっち園内を回るトシとナマエさんは遠目に見ても分かるくらいそれはもう楽しそうだった。時折笑い合う二人の高さの違う肩や指先が触れる度、どうしようもなく嫉妬してどうしようもなく落ち込んだ。そしてふと我に返るのだ。俺はこんなところで何してるんだ、って。

そっとその場に木の枝を放った。…ああ、俺、ホンット惨めだなあ。

「え?あの、近藤局長?そんなところで何をしてるんですか?」
「…えっ」

その時だった、パキリと足元で音が鳴ったのは。

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