―――張り詰めた緊張。間違いなく見てはいけないものを、見てしまった。


「…ナマエ、それは」
「――見ないで!」


叫んだナマエの声から痛いほどに伝わる"拒絶"が、アイゼルの身体を追いやるために、足を動かそうとする。なんとかそれを抑え、一歩、踏み込んだアイゼルを見たこともないような鋭い目線で、ナマエはその身体を抱き抱え、牽制しようとする。

まるで手負いの獣のようだ。群れることなく、たったひとりで生きてきたそれは悪意を持ったなにものかに傷つけられ、勝利を収めたものの誰にも頼ることが出来ず、静かに痛みに呻いている孤高の獣。その姿は気高く、動物的に美しく、そして人間的に非常に寂しい。――誰にもその姿を見せないから、ナマエは、強かったのかとアイゼルは思う。

アイゼルの目に映る、ナマエの身体は血みどろだ。ずたずたに裂けた制服の隙間から、白い肌に痛々しい無数の切り傷。既に腫れ上がったその傷の治癒を遅くしようと、傷口には魔障が付き纏う。……極め付けは、肌の上を走る真っ黒な、呪いの刻印。魔障と共に得体の知れない悪意を吹き出し、今にもナマエを消し去ろうと。


「ナマエ、」
「…お願い、アイゼル…お願いだから、気持ち悪いから、……見ないで」


――小さな懇願は、ちっぽけなプライドと、"リーダー"の肩書に押し潰されまいとして。

アイゼルはその懇願に、何を返せばいいのか知らなかった。言葉に詰まるのは久しぶりだった。気持ち悪いというのは…――傷だらけの自分のことについてか、刻まれた呪いの刻印についてか。お願いだから見ないでほしいと、願うその声はアイゼルの知る、強く、頼もしく、自分達と共に歩み、しかし少し先に進み道を示すナマエからは随分とかけ離れたところにあった。…いや、アイゼルがそう思っていただけで、ナマエは何もかも完璧な、戦士ではないのかもしれない。…違う、そうではない、そういったことでは。


「……っ」
「っおい、ナマエ!」




ナマエ、と目の前の獣の名を呼んだ、アイゼルの声は届いたのか、届いていなかったのか。


20170201


アイゼルルート。箱庭の10主(夢主)は、お相手によって大きく違うお話をなぞりますよという…需要あるかわからんので投げておきます
ミランくんルートは戦闘が多め。アイゼルは戦闘がほぼ無し。リソルくんはほどほど、って感じです。需要は私にしかないんだよ(投げやり)