バーバラとテリー




「…テリーが花を買うなんて…!」
「そんなに俺が花を買うのは大事件か」
「大事件だよ!大事件に決まってるじゃん!ええええ!!!?」
「チャモロはそんなに騒ぎ立てなかった」
「えっチャモロは知ってるの?レックも?ハッサンも?ミレーユも?アモスさんも?」
「今のところはチャモロとバーバラ、お前だけだ。…おそらく」


いつどこから魔族の手の者が現れるとも分からない、危険な旅をしていることはテリーもしっかりと理解している。一人で行動するより二人で行動した方が効率良く、動けることも仲間と過ごすようになって実感するようになった。…なったから、受け入れざるを得なかったのだが。せめて隣を歩くのは既に知られている、チャモロであれば良かったのにとは思う。


「へ、だ、誰!?誰にあげるの!?あっもしかして、あの酒場のバニーさん?」
「……酒場のバニー?」
「テリーに助けられたーって言ってたよ」
「気まぐれだろ、…覚えてない」
「テリーは気まぐれじゃないよ。テリーはね、なんだかんだ困ってる人を放っておけないお人好し」
「あのなあ…」


にぱり、と歯を見せて笑うバーバラから、気まずくなったテリーは目を逸らす。――今日、この町でテリーと行動を共にすることとなったのはバーバラだった。底知れない魔法力を体内に秘めているとは思えないほど純粋で、太陽のように眩しい笑顔をテリーは上手く直視できない。バーバラの明るさに救われ、そのバーバラを誤魔化すことに躊躇いを覚えるからだろうか。そもそも躊躇いを覚える時点で、随分と仲間のことを信用するようになったものだとテリーは思う。迷いなく仲間だ、と言えてしまうあたりで、既に。


「なら、困ってるやつに贈る花ってことにしておいてくれ」
「その人は、どうして困ってるの?」
「…いや、困ってるのは俺だ」
「へえ、テリーが困ってるんだ。その人が、振り向いてくれないから?」
「まあ、そういうことになるかな」
「テリーぐらいカッコよければ、どんな人でも振り向きそうだけどなあ」
「顔だけで上手く行くんなら、花なんか贈る必要はないな」
「あ、そっか」
「気になるんならぜひとも、考察してみてくれ」


テリーが言葉を締め、足を止めるとそこはバーバラの目的地である道具屋だった。「あ、」魔法力を回復するアイテムを求めていたことを思い出したのであろうバーバラは、聖水買うんだった!と道具屋に一人飛び込んでいく。強引に会話を切り上げた感覚を上手く呑み込めないテリーも、バーバラに続いて道具屋に足を踏み入れた。ふと目についた夢見の実を思わず手に取りそうになったテリーの目の前を、懐かしい影が過る気がして。


「…駄目だな、本当に」
「どうしたの?テリー、夢見の実なんて」
「………あいつの夢を、見たいと思ったんだ」
「上の世界に、その子はいたの?」
「ああ。…会えなかったけどな」
「どうして?」


どうしてか。どうして、会えなかったか。上の世界にも、あいつは居たけれど。


「…幸せそうだったんだ」
「幸せそう?本当に?」
「ああ。…心の内は知らないが、結婚していた」
「………で、でも夢なんじゃないの?」
「夢だけど、多分こっちの世界でも…近いうちにそうなるんだろうな、とは思う」
「テリーはそれを応援したいから花を贈るの?嫌だから、花を贈るの?」
「…さあな」
「自分でも分からないんなら、このままじゃだめだね」


小瓶と聖水をカゴに詰め込んだバーバラが、睨むようにテリーを見据えた。「さあテリー!このバーバラ様に話しちゃいなさい、何もかも!」その言葉を聞いた瞬間テリーは、くるりと踵を返し道具屋を出る。仲間と過ごす心地良さはどうにも、テリーに余計なことまで口走らせるようだった。それは悪いことではないのだろうが、テリーにとっては最近の悩みのタネの一つだった。

――だって、知ったらあいつら、絶対なんとかしようとしてくれるだろ。

20160424