箱庭に閉じ込められたその生き物は
―――彼女は本当の親から愛情を貰うことなく、虐げられて育ったらしい。
―――彼女の本当の親は、彼女を売り金銭を得ようとしたらしい。
―――彼女は恐怖と悲しみで、自らの記憶を封じたらしい。
―――彼女は勇気ある青年貴族に、その命を救われたらしい。
―――彼女は青年に、自らの存在を全て、捧げると誓ったらしい。
―――彼女は青年の家に引き取られ、青年の親は彼女の親になったらしい。
―――青年は彼女を心から愛し、彼女もまた心から青年を愛したらしい。
―――彼女は虐げられた後遺症で、痛みを和らげる薬無しでは歩くことが出来ないらしい。
―――彼女は一度だけ、青年の管理する箱庭から攫われたことがあるらしい。
―――彼女は見世物として、商品として、最終的に殺されそうになったことがあるらしい。
―――危ないところを青年に救われ、それにより成年は彼女を守る箱庭をより、強固なものにしたのだとか。
―――彼女を特別な時以外は、庭にすら出さなくなったのだとか。
―――彼女の楽しみは、彼女の召使が運んでくれる花。
―――青と、銀と、紫色の花。
―――彼女は何かを思い出したいと思っていた。
―――それは、思い出さなくていいことだとも思っていた。
これがナマエの知っている、"ナマエ"という名の少女の全てだ。
20160519