奪ってやる宣言


爆豪が、教室で。みんなの目の前で、私に告白した。

爆豪らしいシンプルな、好きだ、という言葉は私の脳を揺らした。嬉しかった。同時に悲しかった。私はどうしたか。……好きな人が居たから、断った。爆豪はそれを知っていた。分かってた、と小さく、私にだけ聞こえる声で呟いたのを聞いた時は心臓が軋んだ。それでも私は自分の気持ちを捩じ伏せるのも、爆豪に嘘を吐くのも嫌だったから断った。ごめんなさい、私には好きな人がいるんです、と。

静まり返った朝の教室で、それを見ていたクラスメイトの中に私の好きな人はいた。多分、爆豪は気がついていた。私がずっと見ていたのが誰なのか、爆豪は…一番よく知ってくれていたんだろう。私がその人しか見ていなかったように、爆豪もきっと私しか見ていなかった。自惚れではなく、そう感じるのだ。梅雨ちゃんが私と爆豪を似ている、と評した意味をここで少しだけ理解した私は目の前の爆豪に頭を下げた。そうして、彼に背を向けて歩き出す。教室の一角、その人の机の目の前で私は足を止める。


「緑谷出久君。あなたが、好きです」


ぱちり、瞬いた目に映る私の顔は真っ赤だった。微かに教室の空気がざわめく。クラスメイトの視線を、…爆豪の視線を感じていた。出久君は何度か目を瞬かせて周囲を見渡して、僕、と小さく私に問いかけた。そう、出久君。あなたです。頷いた私はもう一度、好きです、と彼に囁いた。戦うあなたが、あまりにも真っ直ぐで、格好良くて。気がついたらずっと目で追いかけているんです。


「……苗字さん、その」
「分かってるよ、出久君。いきなりこんなこと言って、困らせてごめんね」


口元は上手く緩んだだろうか。「…ごめんなさい」「うん」頷いた私は踵を返して、視線を感じながら自分の席に歩き出す。直ぐに答えが帰ってくるとは思っていなかったから、想定内だ。彼の中で私は本当にただのクラスメイトで友達、というポジションにカテゴライズされているのは知っている。ずっと、意識して欲しいと思っていたからきっと……きっと、いい機会だった。心の奥で爆豪に小さく、ありがとうと言ってみる。私がそんな風に考えていると知ったら、爆豪は怒って私に殴りかかって来るかも知れないけど。




数日後、出久君は私に、もう少し友達のままでいて、と告げた。「僕、こういうのは良く分からなくて…考えなきゃいけないことも、たくさんあるし。でも、苗字さんが…かっちゃんの気持ちを知った上で、僕に伝えてくれたんだから、簡単に考えちゃいけないなって。…もう少し友達でいるあいだ、苗字さんのこと、きちんと見てみる。だからその、」考える時間をください、と出久君は言った。私はそれに頷いた。

爆豪に報告すると、露骨に嫌な顔をされた。…されたけど、爆豪は顔を逸らして良かったじゃねえかよ、と毒づいた。何故私は爆豪に、出久君とのことを報告したのか分からない。それでも爆豪には言っておかなければならない気がした。だって私たちは、


「デクなんか、すぐに飽きるだろうけどな」
「飽きないよ」
「飽きる」
「飽きない」
「なんで言い切れるンだよ」
「出久君が好きだから」
「………モノ好きなヤローだな、お前も」
「そんな物好きを好きになったのは誰でしょう」
「知るか!」


吐き出された言葉が少しだけ痛い。それでもごめん、なんて謝ったりしない。謝られることを爆豪は、きっと望んでいないと思う。じゃあ、私は何を言えばいいんだろう……「ありが、」「ハァ?ふざけんなよテメー」ありがとう、と言おうとした私の声を掻き消した爆豪の方を振り向いた。やっぱりこっちもムカついたかな…――ってなんだこの、大胆不敵な笑みは。


「惚れさせてやるよ、今度はな」
「…負ける気がしないなあ」
「はッ、俺が二度も手前に負けるか」


奪ってやる宣言

(2015/05/07)