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――それは、ほんの一瞬だったはずなのに。



目の前に倒れたのは攻撃を仕掛けてくる巨大なギミック。ポイントを稼ぐのに邪魔だった巨大な障害物。避けるものとばかり思っていたそれを、吹き飛ばした小さな影。

女の子が倒れていた。彼女を守るために、試験やポイントを全て捨てて飛び出した。試験の終了を告げるホイッスルの音が耳に届いたけど、私は一歩たりともその場から動けなかったのだ。周囲のざわめきも、誰かが私に話しかけてきている声も、何も耳に入らない。

腕を変な方向に曲げて、倒れ伏すその男の子から目が離せなかった。飛んで、殴って、吹き飛ばした。…最初に自信の無さそうな、おどおどした態度を見ていたからこそ衝撃はとてつもなく大きかったのだ。リカバリーガールにキスを貰い、怪我を治し、運び出されていく彼から私は一度も目を離すことはなかった。――目の前に当のリカバリーガールが現れるまでは。


「アンタも怪我してるね、足を見せてごらん」
「……っあ、はい」
「おやおやボーっとしちまって」


触れられた箇所の痛みがすうっと引いて、我に帰ったところで私は初めて、男の子に見惚れていたことに気がついたのだ。お食べ、と手に乗せられたハリボーの色は桃色だった。他に怪我した子は、呼びかけながら去っていくリカバリーガールの背中を見つめながらもしかして、もしかして、と脳内で自分の声がぐるぐるぐるぐる、回っていた。


―――意思の強い瞳のなかで、揺らめき立つその炎。


顔に熱が集まっていた。今まで生きてきたなかで、こんな風に目を奪われたことがあっただろうか。こんな風に、何かを期待したことがあっただろうか。…こんな風に、体中がふわふわしたくすぐったい、何かで満たされたことがあっただろうか。

初めての感覚に戸惑って、でも一歩踏み出した時には私は彼が雄英に合格していることを祈っていた。同時に自分が合格していることも、心の底から祈っていた。最初は落ちてもいい、と思っていただけに心境の変化には自分でも驚いた。全部、あの男の子のせいだ。あの男の子が、あの男の子が。


「かっこいい、なんてレベルじゃない……」


(2015/04/23)