17.5


「どうしたんだ、テリー。こんな時間に」
「……アクトか」
「なんだ、珍しく顔が赤いな。……ああ読めたぞ、ナマエか」
「………」
「で、どうなんだ?進展でもあったのか」


アクトの顔を見ながら、俺はレックのことを思い出していた。今のアクトの顔は……デスタムーアの城に入る直前、ドランゴにじゃれつかれていた俺を見るレックの表情によく似ている。プレッシャーを背負い、気を緩めることが出来ない時間の合間に見せる普段の表情。おそらくアクトはメーアに余計な気を負わせないよう、色んなものに手を回しているのだろう。――約束、か。


「お前やメーアと同じだ。…一つ、約束をさせられた」
「そうか。…なら、守り抜かないとな」


穏やかな笑顔を浮かべるアクトは、確かにレックと同じ勇者だった。確かに俺はアクトに惹かれて、ここまで来てしまったのかもしれない。ヘルムードの時と同じように、…デスタムーアの時と同じように。巨大な闇を払うことは、レックにしか出来ないことだった。ならばシャムダも、アクトとメーアでしか打ち倒すことは出来ないのだろう。

ナマエの指が触れた頬は、まだ熱を残していた。同じように微かに熱を残す額に触れながら、そろそろ寝ろよ、と背を向けて歩き出したアクトを見送る。――最後の戦いも、アクト達との別れも確実に近づいて来ていた。…この船の居心地は悪くなかった、と頭の片隅でらしくないことを思う。


――いつかナマエと、この世界での旅を語り合う日が来るのだろうか。


**


恐ろしい数の魔物がエルサーゼに近付いているという情報に、シャムダの襲来が時間の問題であることを知る。未だ手掛かりすら掴めていない光の腕輪に頼ることは出来ないが……存在すら不確かなものすを頼るより、背中を預けられる仲間を信じて剣を振るう方がいい。

シャムダの襲来を間近に感じさせる、途絶える事のないモンスター達を打ち払いながら地平線の向こう、海の底からシャムダが現れるのを待つ。現時刻は日が登って数時間ほどだろうが、空は暗雲が埋め尽くしてして太陽の光は時折雲間から覗くだけだった。城下に入り込んだ魔物を一掃する頃には、シャムダが襲ってくるのだろう。

漠然とした確信がそこにはあった。確かに最初はヘルムードを追うためだけだったのかもしれない。
それでも今の俺はアクト達の仲間だ。この世界を守るために戦うのを躊躇うことはない。……それに、"約束"してしまった。

―――ナマエの願いが、俺にしか叶えられないのなら。






(2015/03/14)