09


次なる目的地はジュリエッタの故郷、始原の里だと知らされたのはメーアと酒場に降りた後だった。またいくつかのグループに別れた私達は、ジュリエッタの先導で里を目指すメインチームと、里の周辺に送り込まれてきた魔物を一掃していくチームとなってジュリエッタの指示通りに動くことになる。

ここで私はアクトに、新しい短剣を手渡された。「お前は回復魔法や補助呪文で事足りているだろうが…流石に敵も強くなってきている。いざという時はこれで身を守れ」その言葉に異論があるはずもなく、私は素直に頷いた。確かに自分の護身用に持っていた短剣は、手入れはしていたけどもう寿命だった。アクトはそんなところまで見ているんだ…。


「ねえ、やっぱりアクトってすごいんだね」
「そう?確かに作戦はそうだけど、いつも話が長いのよ」
「うーん……メーアが帰ってきてから、作戦がすごく長くなったかも」


そうなの、と私を覗き込むメーアに頷くと、メーアはあの時のアクトと同じように笑った。神殿の奥からメーアを連れて、私達の前に姿を現した時のアクトの笑顔。心から安心した、と嬉しそうに笑うアクトのその笑顔に、通じるものが今のメーアの笑顔にある。

アクトとは本当にずっと一緒なのよね、とどこか遠くを見るようにメーアが言った。きっと二人は幼馴染という関係以上に強い絆で結ばれているんだろう。テリーがアクトとメーアの関係を"相棒"、と評したのを思い出して、私は深く納得したのだった。そしてなんとなく、自分を振り返ってみる。……確かに私は信頼出来る腕、ってわけではないのかも。


「ねえメーア、強さ以外で相手を信頼するとしたら、やっぱり時間が必要だと思う?」
「うーん……どうなのかな。でも強さでだって相手をすぐに信頼出来るわけじゃないわ」


上手く言い表せないけど、とメーアは続けた。「それでも相手を信頼するには、その人を知らなきゃいけないわけでしょう?信頼したいなら、相手を知る。信頼されたいなら、自分を表す…って言えばいいのかな。知って貰えば良いと思うの」


**


テリーは当然のようにアクトやメーアと同じメインチームに抜擢された。今回の私はアリーナやクリフト、マーニャと同じチームに属して周辺の魔物の扉を片付ける係だ。
魔物の群れを一人で薙ぎ倒していくアリーナ、華麗に空中で舞いながら魔法で敵を殲滅していくマーニャ、そしてアリーナを引き止めながらも、的確なタイミングで回復と補助を使いこなすクリフト。この三人にも信頼に裏打ちされた連携があって、私はどうしても自分を部外者のように感じてしまう。その感情はじわじわと私の心臓を侵食して、脳の回転を緩めていったみたいだった。

結果、ジュリエッタ達メインチームが広場でおびただしい数の魔物の大群に襲われた時、助けに向かったその場で一番役に立っていなかったのが私となった。役に立たないどころか回復呪文のタイミングを間違え、且つ敵のストーンマンに掴み上げられ、捻り潰されそうになったのだ。助けてくれたのはゼシカとヤンガスだった。マヒャドがストーンマンを凍り付かせ、動きの止まったその巨大な体はオノの一撃でばらばらに崩れた。

怒られることを覚悟したのに、ゼシカもヤンガスも他のみんなも私を心配しただけだった。…テリーの方を見ることは出来そうになかった。私のこういうところがきっと、一番テリーの癪に触るんだろうと思ったのだ。調子が悪いのか、とアクトには心配され、ナマエらしくないわ、とアリーナには不安そうに覗き込まれ……それでも足を止めるわけにはいかないから、私達はそのまま進んで村のバリケードを狙う魔物達を一掃するためにまた先程と同じグループに別れた。ジュリエッタ達メインチームがバリケードと、それを狙う偽物の魔弾砲の処理を引き受けたから私達は周辺の魔物の扉の破壊に回ることになる。


「ナマエさん!」
「……っ、」


やっぱり、今日の私はどこかおかしくなっているみたいだ。クリフトの声にはっと顔を上げると、微かな機械音と共に赤いレーザーが私に照準を合わせていた。目の前のばくだん岩を爆発する前に倒すことに夢中になっていて、遠目からメタルハンターに狙われていることに気がつかなかったのだ。ボウガンを構えたメタルハンターの様子に、転がって身を躱そうとしたけど足首はいつの間に現れたのだろう、マドハンドに握られていて……驚いているあいだに服と肌を切り裂いていったボウガンの矢は背後の地面に赤い血を垂らしながら突き刺さっていた。……中途半端に転がろうとしなければ、心臓を貫かれていただろうか。





(2015/03/06)