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見られたということは知られたということ。知られたということは、……連れ戻される。

逃げるつもりではなかったとはいえ、そういう風に取られても仕方のないタイミングだった。だからといって今更言い訳をするために戻るのもどうだろう。……とにかく、確認するものは確認しないといけない。魔物は残っているんだろうか。

洞窟の中に足を踏み入れると、ひやりとした空気が肌を伝った。魔物の気配はない。岩のところどころに焼け跡だったり、悪魔の目玉の触手の残骸が散らばっていたり……更に奥へ進むと、デスカイザーのいた少し開けた場所に出た。当然、ミミック達の姿はないけれど、きらりと鈍い金色の光が岩の影から漏れる光に反射した。駆け寄って焼け焦げた後を残す岩の影からそれを拾い上げる。

拾い上げた欠片はスカウトリングの欠片とみて、まず間違いなさそうだった。もう一度周囲を見渡して、光に反射する鈍い金色を探す。いくつかのリングの欠片を拾い上げて手のひらの上で並べてみたけれど、やっぱり輪にはなりそうになかった。そしてやっぱり、旅の扉は壊されてしまって使い物にならなくなっていた。一定の速度で綺麗な渦を描いていた扉は今や、不規則な速さで歪な渦を描いている。安定していない旅の扉に飛び込む勇気は流石になかった。…これは流石に、体がバラバラになる可能性も捨てきれない。もし五体満足でいられたとしても、どこに飛ばされるか分からないものに飛び込むのなら、私は精霊なり神様なりを探して元の世界に帰らせてもらいたい。


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「うわ」
「なーにコソコソ勝手に逃げてんだ、お前は」


案の定と言うべきか、洞窟の入口に戻ると岩にもたれ掛かってこちらを睨んでいる銀色がいた。どうやら随分不機嫌みたいで、気まずくなって目線を逸らす。


「……好きに行動してていい、って言われたから」
「島の中で、って隊長サンに言わせりゃ良かったか?」
「でもどうしても確認したいものがあったの」
「……で、収穫は?」


いくつかのスカウトリングの欠片、ぐちゃぐちゃになって不安定な旅の扉…これを収穫と言えるわけもないので私は肩を竦めて首を振った。だろうよ、と呆れたような声が返ってくるのも案の定といったところだろう。手のひらの中に握り締めたリングの欠片を握り締めると、尖った部分が肌を破って血が流れだしたみたいだった。後で薬草食べておこう。


「とにかく戻るぞ。隊長さんがあんたを探し始める前にな」


血は手のひらから溢れることはなかったから、ヒムは私が握り締めているものの存在に気が付かなかっただろう。銀色の髪が風に揺らぐのを見つめながらぼんやりと島のこと、さっき見た景色のこと、それから遊撃隊が拠点にしている家の光景を…思い出そうとするけどどうにも、洞窟のイメージが頭から離れない。…ショックが強すぎたの、かもしれない。

四苦八苦していると首の後ろを持ち上げられる感覚があった。一瞬で景色が過ぎ去って、呆然としている間に私は島に戻っていたようだった。目の前には、ヒムがさっきまで運んでいたんだろう丸太がそのまま放置されていて、当たり前のように私から手を離したヒムはそれを再び軽々と持ち上げて歩き出した。その背中を何も言えないまま見送りながら、私はもしかしたら、について考える。戻れなくなっていたのかもしれないと考えると、ヒムにありがとうを言わなければならないだろう。


「…もう少し落ち着いて、冷静に行動すればよかった」







(2015/03/04)