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「で、キミは何が出来る?」
「何が出来るって…まあ、生きていくのに必要最低限のことぐらいは」
「戦いはどうなんだ」
「モンスターマスターとしては中堅ってとこかな」
「ううん……クロコダインさん、どうしよう」
「それはお前が決めることだ」


しかし戦えないのか、と小さく呟かれたのを聞いて肩をすくめた。モンスターを使役出来ないモンスターマスターなんて、ただの一般人に違いない。正直、元の世界に帰るために出来そうなことがたくさんあるのに、出来ないままここに預けられて私はちょっぴり不満なのだ。

―――チウが修理してくれた柔らかいベッドで、一晩を明かした次の日の朝。

朝ごはんを食べた後にチウとクロコダインさんに呼び出され、告げられたのは私がしばらく、チウやクロコダインさんの監視の下、生活せねばならないということだった。現在私は遊撃隊の臨時隊員(人間でもいいのか、と思ったけれど黙っておいた)として、何が出来るのか面接のようなものを受けている。単身で戦えないのは予想外だった模様。
一応リングが無くてもスライムやドラキー、モーモンぐらいなら仲間に出来そうな気はしている。…だから早く、この面接切り上げて外に出てみたいなあ、なんて。でもどうしようどうしよう、と唸るチウの姿はなかなかに魔物好きの血を騒がせる。遊撃隊の食事はどうやら、隊長であるチウ自らが全て賄っているらしい。味はなかなかぐっとくるものがあって、世界は広い!と私にしみじみと実感させた。喋れて、料理も出来て、魔物の一部隊を統率する空手ネズミが存在するなんて!


「――…え、ねえ!起きてる?」
「え、あ、うん」
「キミ…じゃなくて、ええと」
「名前」
「そう名前!名前は、文字を書くのは得意?」
「得意というか、一般教養というか」
「料理は?」
「まあそこそこ…フルコースなんて言われたらそりゃあサジ投げるけど」
「じゃあ、魔法!」
「ルーラとかリレミトとか、トラマナとか?攻撃魔法の契約はしてない」
「クロコダインさん!」
「うむ」


きらきらと目を輝かせたチウが、同じくどことなく柔らかい表情になったクロコダインさんを見上げる。今の受け答えで何がお気に召したんだろう…戦いは一切出来ないってことで、役立たず認定を受けるとばかり思っていたので困惑してしまう。わけもわからないまま、拾い物!とはしゃぐチウが私に何か差し出した。「臨時だから、ナンバーは入れてないけどね!」「…バッジ?」きらきらと輝く小さな丸いバッジを、流れでそのまま胸元に留めた。遊撃隊員の証か何かだろうか。


「じゃあ名前、お昼前になったらボクのところに来てね」
「お昼前?構わないけど、それまで私は何を…」
「散歩でもお昼寝でもして時間潰してて!」


もしくは外でみんなの手伝い!と言いながらチウが私を部屋の外へ押し出す。「あと、ボクは隊長だからね!」「あー、うん。隊長さん」「そう!」得意気に胸を張ったチウ改め隊長さんが、じゃあまた後で!と手を振りながら扉の向こうへ消えていく。お昼前まで自由時間を得てしまったわけだが、さてどうしようか。


「外に行ったり、建物の中見て回ったり、あとは散歩…かなあ」






(2015/02/03)