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出会ったばかりの怪しい女の子を簡単に信用していいのかと難しい顔をするポップと、でも嘘を吐いているようには見えないと援護するマァム。
オレの耳に入ってくることはあれど、隊長さんの首根っこを掴み上げて揺さぶっている女の耳には入っていないんだろうと思う。しっかしモンスターマスター、ねえ…


「ゲホッ…で、キミはヒムちゃんの力を借りてどうしたいの?」
「……元の世界に戻るための扉を作ってもらおうと思ってたから、精霊に会いに…」
「精霊?」
「人間界より魔界の、例えば物凄く強い魔界の覇者とかが封印されていたら…精霊はそこに、封印の上書きに来ると思って。そうしたら魔界に行くことになるでしょう?でも、私一人でなんて死にに行くものだよ。………一緒にここに来たミミックとアークデーモンはあのデスカイザーに殺されちゃったし世界樹の葉はないからここで蘇生はできないし…」
「う、うー…ん…?」
「本当はあのデスカイザーを仲間にする予定だったから、まさか食べるために干されると思わなかったし、…リングがなくなったのも本当に困ってるし」
「よく分かんないけど、要するに仲間が足りないってこと?」
「……まあ、そういうことかなあ」


本当はうちの子が一緒に居てくれたらいいんだけど、と目を細めて窓の外を見つめたそいつは、部屋の隅で自分をどうするかという相談が行われていることには気がついていない。まあ、怪しまれるのは当然っちゃあ当然なんだけどよォ…拾ってきた張本人であるだけに、妙な責任感を感じているのも確かだ。


「オッサン、あんたはどう思う?」
「…封印の上書き、という言葉に思うところがあってな」
「さっきの会話か?」


顔を寄せると、目をすっと細めたおっさんが少し考えてから口を開いた。「いや何、…魔界にはまだ、冥竜王ヴェルザーが封印されているだろう。あの時ヴェルザーは確かに"忌々しい精霊共よ、やつらは力を持たない変わりに不思議な術を使う"と…つまり精霊は存在する。魔界も存在するのを我々は知っているだろう、ヒム。…お前はとんでもないものを拾って来たんじゃないか」「……」――…確かに、普通の人間は知りえない事実だ。

会話を聞いていたんだろう。どうにかしてあげたいけど、と言わんばかりの表情をしていたポップとマァムの眉間に皺が寄っている。多分、ここがダイの故郷だということも警戒する材料になっているんだろうなあとは思う。……やけに"詳しい"のが引っかかるのだ。



「なあヒム、おっさん、チウ…ちょっといいか」
「おう」
「………」


**


さて、どうしたもんか。そもそもどうすりゃいいのか。


「ヒムちゃん!とにかく荷物運び出して!」
「めんどくせえよォ、隊長さーん」
「どっちにしろ物置は作らなきゃいけなかったんだし、丁度いいじゃない」
「………拾って来るんじゃなかったぜ」


雑に積み上げられたがらくたを見上げて、思わず溜息を吐き出した。念のため、ってことで確か…ナントカ?って名前の女はオレの部屋で寝ている。その間オレ達はがらくたを詰め込んでいた部屋をそいつの部屋にするべく、片付けをやってるってわけだ。

そいつの対処として、オレ達が出したのは『様子見』だった。しばらく、隊長さんの元で様子を見て今後の対処を決める。捨て置くわけにはいかないし、と言ったマァムもやはり、初対面の身元も知らない人間をアバンに引き合わせるのは気が引けたようだ。

――で、隊長さんが"なら遊撃隊で預かろう!"と言い出したのだ。お人好しにも程がある。


「ヒムちゃーん!物置に使わなくなったベッド押し込んでなかった?」
「あいつらが遊んで壊したやつか」
「ボク修理してみるから、外に出しといてくれる?」
「あいよ」


よろしくね!と笑顔を向けてぱたぱたと走り去っていった隊長さんの背中を見送る。最初はなんつーか、弱そうって思ってたんだけどなあ……お人好しな隊長さんのそういうところは嫌いじゃない。……いや待て、影響されてオレまでそんなふうになってるせいでこんなトラブル抱え込んだのか!?






(2015/01/25)