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「ダメダメダメ!ヒムちゃんはうちの子なんだから!」
「う、なら一時的に力を貸して貰えませんか!」
「名前だったか。そもそもどうやってヒムをスカウトするんだ」
「よくぞ聞いてくれました!それはモンスターマスターだけが所有するこのスカウトリングで、」


………。


「リング壊されたんだった…せっかく元の世界に帰れる希望が…」
「元の世界?……おい、オレにしがみついたまま泣くな!」
「とりあえず話を聞きましょう。名前、こっちに」


**


「…モンスターマスターっていうのは、魔物を使役し、共に戦う職業のことなの」


すん、と鼻を鳴らした私の顔に、ほとんどの視線が集まっているのを感じた。「今は手元にないし、二度と手に入るか分からないけど…スカウトリングというアイテムを使って、自分の力量を示すの。で、それに応じてくれたモンスターが仲間になってくれる」一番最初、仲間にしたスライムは石ころを投げて仲間になってもらったのをぼんやりと思い出す。あの子はお嫁さんと旅立ったけど、元気にやっているんだろうか。


「悪ィが、聞いたことないぜ、そんなもの」
「うん、この世界にはきっとまだ存在しないものなんだと思う」
「この世界?さっきも、元の世界に帰るとか、なんとか…」


揃って首をかしげるポップとマァムの目線からそっと目を逸らした。「その、だから私は旅の扉を潜ってこの世界に来て…扉が壊されて、帰れなくなってて」「旅の扉?」こてん、と首を横に傾けた隊長さん(…と、呼ばれていた…喋るねずみ)のその純真な表情に戦慄が走る。聞きたくなかった!まさか旅の扉まで…いやでも世界によっては厳重に守られている例もあったはず。可能性はまだ捨てるべきじゃない…


「ねえ、旅の扉って?」
「青い渦のゲートで、飛び込むと別の場所に繋がってる…最初はすごく気持ち悪い」
「ボクは聞いたことないなあ。クロコダインさんは?」
「……わからん」
「マァムさんは?」
「私は聞いたことがないけれど、先生なら知っているんじゃないかしら」
「でもマァムよお……」


難しい顔をして、ちらりと私の顔を見たポップがマァムと一緒に部屋の隅へ移動して、何事か相談をし始める。先生、という単語は…それにこの世界は本当に、どんな世界なんだろう。モンスターマスターの概念がない、旅の扉も一般的でない…私が元々いた世界とは、つくりがまったく違うみたいだ。どの世界でも共通なのが、魔物だろうけど。


「あの、隊長さん」
「うん?なにかあった?」
「えっと…ここはなんていう町?」
「町じゃないよ、ここはデルムリン島。船でしばらく行けばロモス王国があるけど」
「モンスターと一緒に人間が暮らしているのは一般的?」
「一般的になればいいけどねえ…そうすればボクもマァムさんと」


腕を組んで何やら唸りながら、ううん、と首をかしげる隊長さんはどうやらマァムのことが好きみたいだ。全然、良いと思うんだけどなあ…種族が違えど、一生を共に過ごすことはできるのに。どうやらこの世界では、魔物と共に生きるのは一般的ではないらしい。

よくよく見ると周囲の魔物たちは皆穏やかだ。隊員と呼ばれていたモンスター達も優しい目をしているし、空気もどことなく優しい。

………魔界が、存在しないとか。魔王が存在しない、とか。


「この世界の魔王は勇者に討伐されている…?」
「へっ?」
「でも魔王が存在するなら魔界も存在するだろうし、でも通行手段…」
「ね、ねえ待ってキミ!ちょっと!」
「魔王は討伐されていて、大魔王が潜んでいる時期かも…それとも魔物が動物と同じで一般的な世界?ねえどうなの!?」
「ボクはよくわかんないけど、大魔王はもうこの世にいな、」
「いないの!?勇者に倒されたんだ…その大魔王の名前は!?」
「き、キミ!ゆさ、ゆさぶ、らないで!バーン!バーンだよ!」
「大魔王、バーン…」


思わず掴んで揺さぶってしまったことを心の中で謝りながら、目の前で目を回す隊長さんを見つめる。大魔王、バーン。聞いたことは多分、無いと思う。ってことはこの世界は私が元々いた世界と根本的ななにかから違う異世界なんだろう。どうしよう本当に帰れないかもしれない……






(2015/01/25)

説明回でした。
夢主はゲーム軸→ダイ大に飛んだので価値観が根本的に違うんだと思われます