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気がついた?とこちらを覗き込んでくる優しそうな女の人。それから、頭に走る激痛。

ゆっくりと記憶を辿った後、奇跡を信じて天井に右手をかざす。…指輪はやっぱり無くなっていた。取り上げられて、捻り潰されたんだから当然だと言えば当然か。扉も多分、向こうのイオナズンの攻撃の巻き添えになって壊れた……と思う。一緒にここまで来てくれたミミックも、ついこの間生まれたばかりのアークデーモンも…二度と会うことがないかもしれない。そもそも、ここはどこ?旅の扉の先が孤島や森林、遺跡じゃなくてこんな住み心地の良さそうな家がある場所に繋がってたことなんてあったっけ。


「…あの、ダメ元でひとつ聞いてもいいですか」
「?なにかしら」
「"モンスターマスター"、って聞いたことあります?」
「……モンスター、マスター…?」


訝しげに潜められた眉と、困ったような目線に私は帰れないことを悟る。どうやら現状、この世界に骨を埋める のコマンドしか用意されていないらしい。


「ところで、あなたの名前を聞いてもいい?」
「あ、私は――」


**


「初めまして。名前といいます」


あっさりと名乗り、(何故かオレの方をちらちらと見ながら)頭を下げたその女を上から下までじろじろと眺め回す。失礼だぞヒム、とオッサンが言ったのが聞こえたかもしれない。ポップはよろしく名前!と軽率に手を差し出したまでは良かったのだが、お近づきに…と言い出したところでマァムに沈められていた。知り合い以外の来客が珍しいせいか。物珍しそうに目が覚めたばかりの人間の髪の毛を喰むパピィはマリべえが必死に止めていた。

以外にも魔物に囲まれているというのに、驚いたり恐怖することはなくその女は楽しそうに戯れている。しかしなんというか、全体的に覇気がねえんだよなあ…。小粒(時々大型)のモンスターに囲まれてるってのに、あの中で一番弱そうだ。


「それで、私を助けてくれたっていうのは?」
「ウム!我が優秀な隊員が君の命を救ったんだ!感謝したまえ」
「ええ、ありがとうございます。…生きていられると思わなかった」
「うんうん、キミみたいなか弱い女の子が一人じゃねえ」
「デスカイザーから、マスターだけが生きて帰ってくるなんて」
「デスカイザー?ヘルバトラーじゃないの?」
「ヘルバトラー!?いえ、あれよりももっと…強かったでしょ?」
「ヒムちゃん、どうだった?デスカイザーだったの?」


隊長さんはお願いだからオレに話を振らないで欲しい。「…さあ?そもそもデスカイザーってなんだよ」動きが遅かった、ぐらいしか印象に残ってねえんだよこちとら。「まあ、力はそこそこ強かったんじゃねえの?」肩をすくめながら半分適当に返してやると、輪の中心から出てきたそいつがつかつかと俺の方へ歩いてくる。


「……なんだよ」
「あなたが、あのデスカイザーを倒したの?」
「だったら何だよ」
「………」


一歩、また一歩。近寄ってきたその女の目線は非常に鋭い。まるで品定めをするかのようなその目線に思わず一歩下がった。こういった目線は気分が悪い。「……おい」「……」そこそこ、低い声を出したはずだ。だというのに動じている様子はない。実力行使は流石に気が引けるしなあ…見た限りは普通の人間の女だし、どーすっかなあ…そもそもなんなんだこの女は。いきなり馴れ馴れしく触ってんじゃねえよ。


「なんなんだって、さっき名乗ったでしょう」
「悪いな、聞いてたけど忘れた」
「それより、あなたはオリハルコンなの?どうして動いてるの?……12?」
「………」


こつこつこつ、とオレの胸元を握りこぶしで叩きながら、体に反射した自分の顔に見入るこの女をオレはどう処理すればいいんですかねえ隊長。「ねえ、あなたの種族名はなに?」「…種族名?」「銀色の髪…魔法やブレスを弾き返す体は伝説の鉱物オリハルコン…知らない!聞いたことも、存在そのものも!」飛びついてきたそいつに耳を引っ掴まれたかと思えば、顔と顔が触れそうなほどの距離に引き寄せられていた。うわ、とポップが言ったのを聞き逃さなかった耳は引っ張られていても機能しているらしい。


「ねえ!名前は!?」
「は、」
「名前!あなたの名前!はやく!」
「うわ、やめろ!耳がいてえっての!」
「はーやーく!」
「わーった!わーったから!ヒム!オレはヒムだ!」
「ヒム!……ヒムね、ヒム…」
「……おい、離せ」


「ねえ私あなたのことスカウトしたい!」
「………は?」






(2015/01/19)

夢主はスカウトリングを使う至って普通のモンスターマスター。
スカウトリング紛失により職を失うことになります。魔物図鑑が愛読書で知識が偏っています。モンスターマスターとしては中級程度の実力だったらしい。まあ今後一切関係なくなります。
好きなことに関しては饒舌になるタイプ。

補足:チウ達が住んでいるのはチウ達が建てた家(きっとログハウスだと想像)という設定にしてあります。最終巻で遊撃隊が丸太を運んでいるシーン大好きです。後、各所の魔物討伐の依頼なんかを請け負っていたらいいなあとご都合主義で設定しました。ちなみにここデルムリン島です。じーちゃんと丸太運んでたのできっと家を建てたんだ…そうなんだ……だって人間と共存出来ないもんね魔物はね……しょうがないですけどね
ちょっと離れた場所にじーちゃんの家がある感じだといいなあと思っています。