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「あ、おかえりヒムちゃん!………ヒムちゃん?」
「おう隊長さん。なにをそんなに驚いてんだよ」
「だ、だって!肩!それ!女の子!」
「ああ、ちょっと拾った」
「拾った!?拾ったの!?どこで!?どうやって!?」
「死にかけだからさァ、さっさと回復してやってくれない」

………。

「クロコダインさーん!!ヒムちゃんがーっ!ヒムちゃんが女の子をキズモノにぃっ!」
「変なこと大声で口走るんじゃねぇ!」


**


全速力で帰ってきたってのに、まったく随分な扱いだと思う。

騒ぎを聞きつけてやってきたポップの回復魔法で、傷を(おそらく)完全回復したその女は現在、マァムに見守られて俺の部屋のベッドで眠っている。どうして俺のベッドに、と文句を言ったのは見事にスルー。起きた時に周りが男ばかりだったり魔物だったりしたら驚くだろうというマァムの意見により、俺たちは部屋から追い出されて今に至る。丸いテーブルに座らされた俺を囲むのはポップと、クロコダインと隊長さん。そして周囲にはお馴染みの面子。


「で、ヒムちゃん。依頼のヘルバトラー討伐は?」
「一瞬。テキトーにやってたら倒しちまった」
「ならば出処は分からなかったのだな。どうする、チウ」
「とりあえずボクは報告書をパピィに運んで貰って…それから…」
「あの子、結構可愛い顔してたよなー。ヒムちゃんはどう思う?」
「っていうかヒムちゃん!説明!」


ニヤニヤ笑いながらどうなの?と顔を近づけてくるポップから逃れるために身をよじると、眉根を寄せた隊長さんと目線がかち合う。…なんだその、ボクは信じてるから!とか言い出しそうな顔。そもそも顔なんてそこまで気にしてなかったしなあ…


「いいか、まず俺がヘルバトラーを倒すだろ?…確かに色はちょっとおかしかったし、異様に他の同種より強かったけどそれは置いておくとしてだ」
「ヒム、それは聞き捨てならんのだが」
「だってよォ、倒しちまったモンはしょうがねえだろ」
「おっさん、そっちの話は後でやってくれ」
「だがなあポップ、脅威に成りえる魔物がどこから来ているのか突き止めないと…」
「クロコダインさん!ヒムちゃんの話が先!」
「………」


黙って肩をすくめた(元)獣王を横目に、続きを早く!と言わんばかりの四つの目の方に向き直る。「まあ、アレだ。そしたら悪魔の目玉に縛り上げられてたんだよ、あの女が。そのまま放置すんのもなあと思ったら、今日お前らが来るって言ってたの思い出してな。間に合うかもしれねえって思ったら…そりゃあ、な」…喋りながらなんとなく気恥ずかしさが湧いてきて、思わず目線を窓の外へやってしまう。ヒムちゃん…!と嬉しそうな我らが隊長の声が聞こえたのは気のせいか。


「ヒムちゃん…!流石は我が遊撃隊のメンバー!よくやった!」
「おうおう、ありがとうございます隊長さんよ」
「命の灯火が消えそうな女の子を颯爽と魔物の巣から助け出すなんて…!」


キラキラと目を輝かせる隊長さんと、その周囲に群がる隊員達。どうやら異分子を連れ込んだことに対してお咎めは一切ないらしい。顔も悪くないらしいし、傷が良くなればすぐにここを出ていくだろう。まあ一つ気になるのは、


「ふーん…異様な強さで、他とは違う色のヘルバトラーねえ」
「お前はどう思うんだ、ポップ」
「聞いたことねえなあ。オッサンは?」
「俺もだ。……まあ、目が覚めたときにそれとなく聞けばいいだろう」
「見たとこ普通の人間だし、いざって時はオレが責任持つ」
「防具も武器も何も無さそうだけど、警戒するに越したことはないしなあ」


結構面倒なタイミングで来ちゃった?なんて楽しそうな顔をするポップの表情が一瞬だけ険しくなったのを多分、クロコダインのおっさんも見逃さなかっただろう。「そういえばポップ、最近ヒュンケル達はどうしている?」「おっさん、あいつがマメに手紙寄越すと思う?」音沙汰無し、と言って肩をすくめたポップはすっかりいつもの調子だった。「連絡がない連絡がないって、マァムがうるさいのは面倒だけどさ」






(2015/01/14)