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間違いなく異様なその光景は、瞬きをしても目の前から消えなかった。

つまりこの光景は幻覚ではないらしい。いやしかし不思議だ……なーんで魔物の巣に人間の女が、今にも死にそうな怪我で捕まってんだ。おかしいだろこんな山奥の、こんな人も寄り付かないような辺境の、洞窟の奥で。あー……ありゃ絡みついてんの悪魔の目玉か。うわ、足が変な曲がり方してんな。確実に折れてるだろ。


「おーい、生きてるかー」


返事はない。変わりにぱちりと目を開いた悪魔の目玉を一突きすると、ぼろぼろと触手が崩れ落ちていく。先程仕留めたヘルバトラーもそこまで強いヤツじゃなかった。確かに色も使った魔法も普通のヘルバトラーとは少し違ったかもしれない。(魔法が効かない体では、あまり実感が沸かないのだけれども)タイチョーさんでもなんとかなったんじゃねえの、なんてぶつぶつ言いながらバランスを崩したその体を抱きとめた。あー、死にそうだけどまだ助かりそうだなコレ。そういえば今日はポップとマァムがこっちに来る日だったような…?こりゃ案外なんとかなる可能性も…?

面倒くせえなあ、と思いながらもその女を肩に担いで洞窟の外へ歩き出す。流石にこのまま放置というのは気が引けるし、と思うあたり自分も随分とお人好しになったもんだと自嘲した。…人助けは、案外悪いもんじゃないと思っている。


「さーて、拾ったからにゃあ責任持たねえとなあ……」






(2015/01/14)