05


「あ、名前ちゃんだ!やっほー!」


後ろを振り向くと、ぱたぱたと足音を響かせて小さな影が駆けてくる。「にしぞ、」「名前ちゃーん!」天馬君と同じように親しみを込めた(むしろあだ名に近い)ちゃん付けで手を振りながら笑顔で走ってきたのは、珍しいことに単体の西園君だった。小柄な体でぴょこぴょこ動く彼を見るたび、私はどうしても発電を自らの体で行うねずみのようなものを思い出してしまう。しかし何故だろう、西園君には誰よりも懐かれているような気がするのは…気のせいかな?そうだよね?広げられた両手からそっと目を逸らしながら飛んできたその体を受け止める。そこそこの衝撃は足を踏ん張って耐える。


「…えーと、西園君。天馬君は一緒じゃないの?」
「今から天馬とオズロックを迎えに行くところなんだ。名前ちゃんは帰るところ?」
「うん。一回帰って、今日はバイト」
「なんだ、昨日雷雷軒にいたから今日は休みかと思ったのに…」
「ご、ごめんね」


残念そうな声に思わず謝りながら、そっと西園君を地面に下ろす。…あれ、いつの間に手を繋いだんだっけ?私より小さい西園君の手は、しっかり私の手のひらを握っている。「ねえ西園く、」「急がないと遅れちゃうんじゃない?名前ちゃん、行こう!」「う、うん…?」「ほらほら!早く帰るよー!」……あ、うん、いいや。西園君がいいならいいや。考えることをやめて首を振ると、西園君は不思議そうな顔をする。


「どうしたの、名前ちゃん」
「西園君には負けるなーって思っただけだよ」
「そうかな?」


こてん、と首を傾げる動作がまたあざとくて、西園君はずるい。ああ、こんな純粋無垢な西園君みたいな弟が欲しかったなあなんて考えながら、繋いだ手に引っ張られるまま歩き出す。そういえば明日から週末だけど、バイトは土曜と日曜、どっちに入ってたんだっけ…


四日目:夕方



(2014/12/16)