02



「ねえ、宇宙人って実在するんだね」
「アンタ何言ってんの?」


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「あ、名前ちゃん!今帰るところ?」


本気で心配された挙句、電波ちゃん扱いを受けた事実に足取りが重くなる帰り道。
手を振りながら笑顔で駆け寄ってくる天馬君は、非常に嬉しそうな顔で私に駆け寄ってきてくれるから、一瞬だけ悩み事を忘れて和んでしまう。ええと、信助君が言ってたんだっけ…天馬君は本当に風みたいだ。一緒に帰ろう!と笑顔で誘われたら頷くだけ。


「珍しいね、今日は部活じゃないんだ」
「うん!もうすぐテストだから、今だけ」
「うえっ、テストかあ…嫌だねえ」
「俺、今回ちょっとヤバくて…サッカーだけじゃなくて勉強のことも考えろって怒られたんだ」
「ああ、幼馴染みの子に?」
「葵もだけど、まさか神童さんにまで言われるなんて…」


うう、と小さく唸る天馬君の横顔は、本当にいつもと変わらない。「だから今から勉強会なんだ。ちょっと煩くなるかもしれないけど、許して欲しいなーなんて…」困ったように眉根を寄せて、見上げてくるのはやめてほしい。天馬君、それはあざとい。あざといよ!

「そんなこと、気にしなくてもいいのに」「ほんと?」「うん。それに天馬君の友達が来ると賑やかで楽しいし、秋さんが私達にもおやつ作ってくれるし」可愛らしい年下に揺れる乙女心を隠しながら、笑ってみせると天馬君も笑った。やっぱり天馬君には笑顔が似合うなあ…すっきりする、って言うのかも。ああ、天馬君は清涼剤に似ている。


「秋ねえ、今日は何作ってくれてるんだろ」
「楽しみだね、私お腹空いてきたよ」
「オズロックも秋ねえのお菓子、気に入るといいんだけど…」
「………あー、天馬君、ちょっといい?」
「ん、どうしたの、名前ちゃん」


お願いだから、何が不思議なの?って表情で語るのをやめて欲しい。「あの、だから…私の隣の、オズロック…?本当に宇宙人?」私別に変なこと言ってない…よね?指先で髪をいじりながら、そっと天馬君の顔を覗き込む。「うん、そうだよ。ちょっと気難しいやつかもしれないけど、ちゃんとサッカーで友達になれたんだ!名前ちゃんも多分…」にこやかな笑顔で会話を続ける天馬君からそっと目を逸らす。木枯らし荘はもう目の前だ。

風に乗ってふんわりと漂ってくる香ばしい香りはなんだろう。秋さん、今日は何か焼いたのかな?「だから、名前ちゃんとは気が合うんじゃないかなって!歳…は近いかよく知らないけど」「う、うん…努力はしてみる」「ほんと?俺、嬉しいよ!」思考をおやつに持っていかれながら、天馬君とぼんやり言葉を交わしているうちにもう玄関だった。おかえりなさい、と出迎えてくれる秋さんの笑顔を見ながら思ったのは、二人ほどコミュニケーション能力に秀でていない私が、どうして天馬君にオズロックと仲良く出来そうだと判断されたのかということだった。


1日目:帰宅路



(2014/12/05)