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「……貴様」
「あ、オズロック」
「…どこへ行く」
「どこって、バイトだけど」


鞄を持って階段を降りてきた私の目の前に、現れたのはオズロックだった。こっそり抜け出してきただけに天馬君か信助君だったらどうしようかと思ったけど…「今日、今からバイトなの」着替えの入った鞄をオズロックに見えるように振ってやると、フン、と鼻を鳴らす音。


「逃げるのか」
「逃げる?」
「貴様のせいで私はさんざんな目に遭ったんだぞ」
「さんざん…?あ、あー……いやあ申し訳ない……」


思わず後ろ頭に手をやると、同時にたんこぶが出来た部分に指が触れて一瞬だけびりりと痛みが走った。「いっ…」「なんだ」言い訳でもあるのか、と言わんばかりの鋭い目線にいやいや違う、と首を振って見せる。そういえばでんこうせっかぐらいのスピードで上に上がっていった信助くんと狩屋君を巻き込んだ影山君はオズロックになにをしたんだろう。


「ねえ、さんざんってどんな目にあったの?」
「……………」
「ごめん人には言いたくないことの一つや二つあって当然だよねごめんね」


川の流れには逆らわない。長いものには巻かれる。自分の身が一番可愛い!恐ろしい殺気を放ってきたオズロックの眼光に素早く謝罪を繰り出して両手を上げた。降伏降伏!私に敵意はありません!どんなことをされたのか気にはなるけど聞きません!


「…気になるのか」
「ううん全然気にならない」
「言っていることが矛盾しているぞ」
「気のせいじゃないかな」
「………」
「気のせいじゃないかな!それじゃあ私そろそろ時間がやばいから!じゃあね!」


おい待て、とオズロックの声が聞こえた気がしたけど何も聞かなかったことにして素早く横を通り抜けた。玄関を出ると剣城君が上着を着込んで待っていて、遅かったですねなんて呑気に言うもんだから思わず溜息が出た。そういえば私と入れ替わりで猛犬がパーティに参戦するんだった。あー…ついでに剣城君が送ってくれるのは有難いけど、二人だと自転車使えないなあ…二人乗りは無理だし、しょうがないから歩くしかないみたいだ。


六日目:バイト前



(2015/02/22)